第18章「迫り来る選択」その16


きっと複雑な事情があるんだろう。


だからこれ以上は聞かないようにした。


解決しようがない問題を聞いたところで、僕には何もできない。


「お前でも悩むんだな」


「そうですね。何が私にふさわしい道があるのかもと考えてしまう時もあるのです」



ふさわしい道か…。小学生の頃はなりたいものがたくさんあった。


それなのに今でも何も叶えていないし、これから叶えられる気がしない。


それでも時間は流れるし、自分の進路を選択しなければならない。


なら、後悔したとしても今の自分が選びたいものを選ぶべきなんじゃないか。


「とりあえず僕は文系にしてみるよ」


天井を見ながら、独り言のように呟くと、東海あずみはペンを止めて僕の目を見つめた。



「それは他人に言われて選んだのですか?」


「わからない。でも、今はこれでいいんじゃないかって思う」


「それはどうしてですか?」


いつにも増して、食い気味にくる。いや、この少女はいつもそうだ。


平木や西山とは違う、好奇心への貪欲さを肌で感じる。


ここまで真剣に聞かれると、真面目に応えるのも馬鹿馬鹿しくなった。



「人間ってどれくらい馬鹿なのか、歴史を通して知りたくなって」


特に面白くもない言葉だったが、東海あずみは机を叩くくらい大笑いしていた。


「そうですね、人間って馬鹿ですよね。それでも、これだけ勉強するのですから、


よっぽど馬鹿なのですよね?」


「…あぁ、そうなのかもな」


何を言いたいのかよくわからなかったが、とりあえず頷いておいた。


「なら、馬鹿者同士、とことん馬鹿になりましょう」


そこまで深い意味で言ったわけでもないのに、たぶん彼女は僕がすごく意味のあることを言ったのだと勘違いしている。


誤解している東海あずみも彼女の言葉の意味を理解できない僕も馬鹿者なのだろう。


「そうだね」


そう言うと、東海あずみはお礼なのか、西山が持ってきたお茶を入れてくれた。


窓越しから夕焼けが消えていくのを見て、僕は熱いお茶をゆっくりと味わった。




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落ち込み少女 淡女 @kuramaru1024

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