あとがき

 ミドエンシリーズ【episode2.蛍狩】は梅雨の時期の蒸し暑さと肌寒さが交互にくる、ぬめっとしてじめじめする陰鬱な雰囲気を物語に含ませています。


今回は犯人側の視点も多く描かれる倒叙とうじょミステリー形式。

犯人の正体はわかりやすいけど何故殺しているの? と、読者も美夜と同じ視点で犯行動機を探るエピソードです。


 着想は源氏物語の「蛍」のエピソードから得ました。この章は主人公、光源氏の義理の娘の玉鬘たまかずらがメインの話です。


ここから義理の父娘の物語を……と構想を練ったらなんとまぁ、こんな話に💦

Act2タイトルの空蝉うつせみも源氏物語に登場する女性の通称。本作は至るところに源氏物語のモチーフを散りばめています。


 川島と蛍、川島と光のイビツな関係のモチーフは源氏物語の主人公の光源氏と夕顔ゆうがおと玉鬘。

夕顔は光源氏の恋人、玉鬘は夕顔の娘で父親は光源氏の友人。

あとは光源氏と藤壺ふじつぼと紫の上も彼らのモチーフにしています。


藤壺は光源氏の初恋の人であり父親の側室、紫の上は藤壺の姪で光源氏の後の妻です。

相関図フクザツ~。紫式部さんはとんでもない愛憎物語を産み出しましたねぇ。


そもそも、光源氏の父である桐壺帝が、亡くなった桐壺の更衣(光源氏の母)と似ているからという理由で年の離れた藤壺を嫁にするので、この光源氏の女に対する性癖は父親譲りなのよね……。

一番ヤベェ男って光源氏の父親じゃん?って私は思うんだよ、うん。


 源氏物語は今の女に昔の女を重ねて愛する男の話(あくまで私の解釈です)ですが、【蛍狩】では川島視点での描写はあえて省きました。

光視点の川島の描写はあっても川島視点の心情描写がない分、彼の気持ちは明確には記されていません。


妻の身代わりが蛍? 蛍の身代わりが光?

誰が誰の身代わりだったのか?

川島は誰を最も愛していたのでしょう?


 本作では援助交際(近年ではパパ活、ママ活と呼びますね)をひとつのテーマとしましたが、前作の早河シリーズにも少女の性ビジネスをテーマにした作品があります。

(早河シリーズ第二幕【金平糖】参照)


扱うテーマは似ていますが【金平糖】は少女が良い大人に出会えた物語でした。

一方でep2【蛍狩】は『少女が良い大人に出会えなかった』物語です。


 援助交際で相手に殺されてしまった事件のニュースを見ていていつも思うのは、同じことをしている人達は殺されなかった、危ない目に遭わなかったことを奇跡だと思ってもらいたいです。

現実に最近もそういった関係のニュースを多く目にして嫌になりますね……。


未成年者をお金で『買う』大人が『イイ人』なわけがない。正常な判断ができる大人は未成年者の身体や時間をお金で買ったりしません。

お金が貰えるからと軽はずみに自分の身体を差し出している未成年の子達にはそれだけ危険なことをしている意識を持ってほしいです。


 2021年4月末にツイッターにて、十代後半から二十代前半の女性をターゲット層にした某有名女性ファッション誌のWeb版がパパ活特集を組んで後日その記事を削除した~という話題を目にしました。

私も二十代前半の頃に何度か読んだことがある知名度の高い雑誌だったので驚きましたよ。


殺人事件も起きて揉め事の絶えないパパ活を女性ファッション誌が後押しするなんて世も末な。援助交際を雑誌が推奨してるようなものですから呆れますね……。


 二作目はパパ活をテーマにした殺人事件ものにしようと決めて資料集めで援助交際の殺人事件のニュース記事を閲覧しているうちに、殺されるのは必ずしも売る側だけとは限らない、買う側が殺される場合だってあるかもしれないと思えてきました。


パパ活なら買う男側、ママ活なら買う女側が、相手に殺されるケースや『買う大人』を憎む存在もいる。

光はそこから生まれたキャラクターでした。


ちなみに時間(あるいは若さ)を売っていた蛍は『パパ活』、身体を売っていた光は『売春』です。パパ活と売春は同じではないのかと思われますが、イコールではなく二アリーイコールの関係なのかも。

パパ活でも肉体関係があれば売春となりますし、この辺りの境界線や捉え方は個人差がありますね。


 あとは刑務所は実は犯罪者にとっては安全な場所なんじゃないかと。刑務所にいる間は犯罪者は塀の中で命を守られています。

光が殺したかった二人の男は服役中。殺したいけど殺せない。


それなら憎い男と似てる男を身代わりに殺せばいい。ここでも“身代わり”がポイントになりますね。

それで光の気が晴れたのかどうか……。


売る側も買う側も何がきっかけとなって相手を殺してしまうか、相手に殺されてしまうか、人生はわかりません。そんな想いを込めた作品です。


 作中時間が2018年なのでなるべく当時の高校生を描写しようと頑張ってはみたのですが💦

美夜と同世代の作者は今のJK文化を必死に調べましたよ……たぶん私が高校生の頃も今の高校生の文化はよくわからないと大人達に溜息つかれていたんでしょうね。


 高校生の制服のスカート丈事情も2018年頃までは膝丈が目立っていたような気がするんですけど、最近(2021年)また街の女子高校生達のスカート丈短くなってきたような?


街やネットで見かける制服着てる高校生はみんなミニ丈なんだよなぁ。でも靴下は短めのままで、生足そんなに見せていいのっ!?と勝手にヒヤヒヤしてます。


 光が持っていた美夜の名刺は愁に渡されました。愁は美夜が刑事だと知りましたが美夜は愁の正体(殺し屋)を知りません。

愁の正体を美夜はいつ知るのでしょうか?


 夏木会長に美夜とは会うなと禁じられた愁ですが会うなって言われた直後に美夜に電話しちゃってますね。……反抗期かな?


エピローグを見ると愁はナチュラル女たらしだな~。彼は女好きではない女たらしです。

ミドエンシリーズでは愁が一番、心情が厄介な男です。


 美夜と愁だけでなく、ほのぼの大学生カップルとは言えない伶と愛佳、愁に片想い中の舞にも一癖あります。舞がしている行為もパパ活ではなく売春ですね。


 今回の物語で本格的に登場したトラットリア〈ムゲット〉のオーナー夫妻の白石園美と白石雪斗は私の短編小説【トマトのカッペリーニ、冷たいパスタで。】(略してトマカペ)のゲスト出演です。

あの話をご覧になった方にとってはトマカペの後日談として楽しめます🍅


園美と雪斗はあれから色々ありながらも結婚しました。

二人の子どもについてはこの夫婦にはこれがひとつの答えであり、生き方なのかなと。きっと園美も雪斗もここに辿り着くまでに悩んで苦しんで喧嘩もたくさんしたんでしょうね。


 今後の物語にもムゲットの場面はあります。

まともな人が少ないこのシリーズでは裏表のない九条くんや園美夫妻が癒しです。

読者さんにもムゲットの場面はホッと一息つける癒しの場になればいいな。


 園美と雪斗の出会いの物語【トマトのカッペリーニ、冷たいパスタで。】は、殺人事件ばかり書いている私には珍しいミステリーとは無縁の美味しくて甘い短編ラブストーリーとなっています。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890142178

未読の方はこちらの作品もぜひご覧ください。


 次回【episode3.夏霞なつがすみ】は起承転結の最初の転の物語。

続きは下記のリンクからどうぞ〜🌼


【episode3.夏霞】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892623939



       ーENDー

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~Midnight Eden~ episode2.【蛍狩】 結恵(yue) @mozukuchan

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