エピローグ
ーー自分の考えがしっかりあるけど、それを決して押し付けない人。言葉は乱暴だけど、本当は優しさに溢れた人。
笑顔が明るくて、目に意思の強さが宿る人。日に透けた前髪は茶色に輝いて、背が高く、誰もが振り返るような輝きを持った人。
「刻!」
と呼べば、
「おう!」
と眩しい笑顔で答えてくれる人。
私が今好きな人。でも、まだ今日まで期間限定の恋人ーー
***
「亜貴、おはよう! 今日は三ヶ月目の日だな」
梅雨の合間の晴れの日。学校まで亜貴が歩いていると、ぽんと後ろから肩を叩かれた。刻だ。
「そうね」
素っ気ない亜貴だったが、刻は自信たっぷりに亜貴を見つめた。
「答えはもう決まってるんだろ?」
「そうね」
亜貴はくすくすと笑いながら、でも言葉はつれなく答える。
「今、聞いてもいいか?」
学校までの道は生徒でいっぱいだ。こんなところで? と亜貴は思うが、お預けを待てない犬のような刻に、
「仕方ないわね」
と言って刻に並んだ。そして、
「耳かして」
と言う。
刻は不思議そうな顔をしながら、身を屈めて亜貴のほうに耳を向けた。
「刻。私、貴方がいないとダメみたい」
亜貴は背伸びして刻の耳に囁いた。みるみる刻の顔、そして首までもが赤くなる。
「それって……!」
刻は亜貴の肩を両手で掴んだ。
「刻が一番好き」
刻だけに聞こえる声で亜貴は言った。
「やったあ!」
刻は鞄を上には投げて亜貴に抱きついた。通学中の生徒たちがなんだなんだと見ている。
「じゃあ、これで本当の恋人同士になるんだよな?」
「そうね。これからよろしく、刻」
「おう! よろしく! 亜貴」
刻はまた亜貴を力一杯抱きしめ、頬にキスをした。
「きゃあ!」
亜貴が悲鳴を上げて、頬を抑える。
「だって恋人同士だろ?」
刻の言葉に、
「そ、そうね。仕方ないわね」
真っ赤になって俯く亜貴の額に、刻は額をくっつけた。そして、
「頂きます」
と言うと、亜貴の唇に唇を重ねた。
周りの生徒から歓声が上がる。その中に刻が振った女子生徒もいて、淡く微笑んでいた。
亜貴は、
「もう!」
と刻の肩を叩いたが、その顔は笑っていた。
完
恋人ごっこ~彼女と彼の一ヶ月間の勝負~ 天音 花香 @hanaka-amane
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