正統派・王道・ド直球の怪獣映画

ある日突然怪獣が出てきて、現代の東京をめちゃくちゃに破壊・蹂躙するお話。
怪獣映画です。怪獣映画としか表現しようがないくらいにはどっぷり怪獣映画しているお話。
とんでもないこだわりぶりというかなんというか、きっちり小説として完成された作品を通じて、その読んだ感覚の向こうに怪獣映画の面白みを再現してしまう。この技巧というか工夫というかは、まず並大抵のものではないと思います。
赤堀亨という主人公。ごく普通の、いわば〝逃げ惑う群衆〟のひとりでしかない存在を視点保持者に据えて、彼の目を通じて書かれる物語。作品自体は完全に小説そのもの、当然小説として楽しく読んでいるのに、でも同時に怪獣映画に感じる興奮をも伝えてくれる。
この恐るべき娯楽性の分解能、そしてその後の再構築の精度に、ただひたすら感嘆させられました。
冒頭の文章が最高に好きです。「怪獣が当たり前に存在していること」が前提の世界観、それを一切の説明なくわからせてしまう手際。他、内容に関わる部分としては、〝子供〟の使われ方が非常に印象的でした。演出が巧みというか、物事の見せ方や切り取りかたが非常に手慣れていると感じる作品でした。