第3話 出口のない密室
その時。
密室がまた揺れた。
視線が大きく振られて、私たちは内側にへばりついて耐えた。なにやら、大きな音も聞こえる。どんどん、ごんごん、という金属を叩く音、幾人かの、怒鳴り声。
がたがたと揺れる密室が、暗い玄関を進み、ドアが開くのが見える。
窓の向こうに、手帳を掲げた男たちが見えた。
「警察だ」
大きな声が、密室に響いて、私たちは耳を塞いで床に蹲る。それから、何か言い争う声。狼狽えて揺れる密室。
やがて、怒鳴り声は籠もるような声になり、密室の揺れは止まった。私たちは、身体を支え合いながら、おずおずと立ち上がる。窓に手を伸ばし、そっと外を伺う。
背後で、何か、声が聞こえた気がするが、構っている場合ではない。
下がってくる睫を押し上げて、私は外を覗いた。
目の奥を覗き込んでいた刑事と、目が合った。
私は慌てて腕を伸ばし、上まぶたという名のブラインドを引き下ろす。密室は、真っ暗になった。
塞がれたまぶたの向こうから、刑事の声が、聞こえる。
「犯人は、こいつだ。理由は判らん。だが……見えた。目の奥に、悪意が見えた」
暗闇の中で、嗤い声が響く。
私は恐る恐る、背後を振り返る。
「おしまいだ」
漆黒の奥で、誰かが呟いた。
安全な密室。世界一安全な。だって、この密室には、出口がない。
私たちは、この頭蓋という名の密室から、逃げられないのだ、永久に。
出口のない闇の中、嗤い声がこだまする。
血だまりの中で死んでいた男の腕が、にゅう、っと持ち上がるのが、私のまぶたに映った。
だってこの部屋には出口がない 中村ハル @halnakamura
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