捕食者と餌、ふたつの種の狭間に立つもの

吸血鬼に捕まって無限の餌にされたはずの少年が、でも吸血鬼たちとの親交を深めてしまうお話。
突然個人的な趣味の話をするのですが、『吸血鬼』というとどうしても耽美な絵面を想像してしまいます。実際、しました。人間であるヨウと、彼を自分の家に住まわせる吸血鬼、ジニア。紛れもなく餌と捕食者の関係でありながら、でもお互いを大事にしあうふたり。
美しい少年同士が仲良く睦みあうような絵面を思い浮かべて、つまりはとても楽しく読んだわけですが、でもその実、お話の筋そのものは非常にハードコアです。
単に「異種族同士だけどこのふたりは仲良しだからオッケー」みたいな、そういうなあなあのところで手を打ってはくれません。不穏です。そも種が違う以上はまず殺し合いに行き着く、と、そういう前提をしっかり組み込んでくるところに痺れました。
人間側の理屈や価値観を代表する、ハクという存在。ヨウを救いに来たものの、しかしすれ違ってしまう二人の思惑。そして、結びで明かされる、ヨウと長老の狙い。終盤のこの、立て続けに襲いくる悲劇の予感。たまらんものがありました。
絵面の美しさと、でもそれとは裏腹の物語の濃さ。というか、黒くて重いエグみのようなもの。このギャップというかそれともバランスなのか、その辺が非常に気持ちの良い作品でした。