吸血鬼のごはん

ももも

第1話 夢

 目の前を、銀糸が揺れる。 

 つかもうと伸ばした手は、届かない。


「ハク……! そっちにいっちゃ駄目だ……!」


 走ってその背に追いつこうとしても距離が縮まることはない。

 ぬかるみに足をとられ、倒木につまずき、どんどんと離れていく。 


「お願いだから、止まって……!」


 叫んでも、君は走ることをやめない。 


 そして瞼を閉じて、再び開けた先。


 場面は変わり、どれだけ走っても追いつかなかった君を今度は見下ろしている。


「白黒コンビで売り出せば、倍以上の価格で売りだせたってのに……クソッ!」


「残念だがあきらめろ。そろそろ保護官のパトロールの時間だ。撤収しないとやばい。それに黒髪のガキだけでも十分利益がでる」


 耳元でそんな会話が交わされる中、君は川の浅瀬でずぶ濡れになってボロボロ泣きながら叫んでいた。


「ヨウ……! 嫌だ……連れて行かないで……! お願いっ……!」


 逃れようと暴れても、手足についた枷が動きを制限する。

 ただ奴らの肩に担がれ揺られ、遠くなっていく君を眺めるしかない。


 川に逃れれば助かったのに、君と違って僕は届かなかった。

 

 たった一歩。あと一歩。


 踏み出せなかった一歩が、僕たち二人の運命を大きく隔ててしまった。

 

 この結末は変えられない。そんなの分かっている。


 けれど、全部自分のせいだと今でも責め続けているだろう君に、この結果はいろいろと不運が重なってしまっただけのことなんだってなんとか伝えたい。


 ああ、それだけなのに。 


 ――声が、でない。


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