無理解なひとたち

「どうしたんだよ、学校サボってこんなとこでこんなことしてよお。勉強、かったりいのか? 落ちこぼれちゃってんですかー」



 反応がないのが気に食わない。俺の話をびっくりして聞けよ。そうでなければ、俺の手を払いのけるくらいしろよ。まったく、つまんないな、……これだから最近のガキは。



「でもさあやっぱり万引きっていうのは駄目なんじゃないの。犯罪だよ、それ。いちどやにどのやんちゃなら、俺も許すけどさあ。さすがに五回めともなってこんなふうにパーチーできるくらい盗まれちゃなあ、商売上がったりなんだよ。わかる? ケーザイってどういう仕組みで動いているかとか。俺が教えてあげようか。なあ、……なあ、なんとか言えよ。学校サボりで万引き菓子でパーリーナイトの悪ガキどもが」



 俺は彼らの頭をもっとわしゃわしゃしてやった。



「ん? なんだ? んん? なんか、事情でもあんのか。おい、言ってみろよ。どうせおまえらガキの悩みなんて社会からしたら取るに足らないだろうが、俺はこれでもまだ駄菓子屋経営っていう子どもに近い仕事してるし、子どものころはやんちゃしたから、わかることだってあると思うぞ。俺だって学校のテストがビミョーだったりしてな。もうあのころは嫌んなっちゃってグレてグレて。まあ社会に出たらそんなのなんてことなかったってわかったんだけどな――」




「友達が死んだんです」




 細い声でしかしはっきりと、少年は言った。



「自殺だったんです。親が、厳しくて。受験のためだからって毎日叩かれて、逃げ場もなくて。その友達には夢があったんです。親にさからうことが夢だったんです。いちどでいい、万引きしてみようって誘われたのに、僕たち、そんなの駄目だろって断っちゃって」



 少年の目が、今初めてこっちをまっすぐ捉えていた。



「常識で断っちゃったんです。社会を優先して考えちゃったんです。そして翌日、友達は死んだ。……おじさんに、わかるんですか」



 真昼が、眩しい。蝉が、鳴いていた。




 どうしてガキどもにそんな目で見られなきゃならない。




 俺はただ、先輩として。善意で。よかれと思って、迷えるガキどもを教え諭し導こうとしてやっただけなのに。






(了)

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真昼の子どもたちの深夜 柳なつき @natsuki0710

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