真昼の子どもたちの深夜

柳なつき

万引き犯たち

「こら、万引き犯たちよ」



 たむろする少年たちの手から、ひょいとコーラの缶を取り上げた。三人の手からそれぞれ、ひとつ、ふたつ、みっつ。ぬるくなっちまってるが、まだ未開封のようだな。それならもう一度店頭で売れる。ああしかし炭酸だからどうか。



 真昼は眩しい。蝉が鳴いている。



 俺はここからでも高いフェンス越しに見える小学校の校舎を眺めた。白昼堂々学校の目の前で、サボって万引きして街路樹のふもとでお菓子にゲーム大会とは、度胸あるじゃねえかよ悪ガキども。



 少年たちの表情は強張っている。



 駄菓子屋のいわば制服であるエプロンを着た俺は、腰に両手を当て、はあ、とわざとらしくため息を吐いて見せた。威圧も込めてだ。ガキには、まず何よりも舐められちゃい

かん。



「気づかれてないとでも思っていたの」



 少年たちはさっと目を伏せた。俺は呆れて周囲を見回す。こいつらの通っているであろう小学校もその真ん前に親父が構えた駄菓子屋も、ここからまあよくくっきり見える。真夏の陽炎でゆらめいていたってよく見える。街路樹の裏側だから見つからないとでも思ったんだろうが、そういうのが所詮は子どもの浅知恵だ。



「あのねえ、こっちだって見逃してやろうと思ってたんだよ。いちどか、にどならね。何度めだ?」


 三回です、と髪質のちょっと尖った少年が顔を伏せたまま早口で言った。


「おう、大人舐めんじゃないよ、五回めだろ」


 少年たちは硬直したままだった。



「俺だってガキのころはやんちゃしたさ。万引きくらいしたくなる気持ちはわかるんだよ。しかしね、それが常習化しちゃいけないだろ。わかるか? 常習って。そんなムズカシイ言葉はまだ小学校で習ってませんかねー」

「習ってないけどそのくらい知ってます。僕たち、全員」

 さっきと同じ少年が答えた。今度は顔を上げている。……おうおう、生意気な顔するじゃねえか。



 俺は小さな三つの頭を腕で一気に抱え込むかのように寄せて、手のひらを広げてその三つの頭の上に乗せた。ここで出会ったのも、何かの縁だ。どれ、教え諭し導いてやるか。こいつらの小学校の大先輩でもあり、いまや社会の先輩の――俺が。

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