第3話 獄炎

私たちは、奥まで見通せるガラスを避け、より下の壁部分に身を潜ひそめた。


廊下の見張りを部屋内におびき寄せるため、青い部屋の囚人2人が喧嘩を始めた。

ニコやその仲間が口笛や「いいぞ! やれ!」など騒ぎ立てている。


もともと、この建物自体に警備は少ないが、廊下に2人の警備がいた。怪訝な顔で喧嘩している囚人の部屋の前まで行き、静止させようとするが、誰も聞く耳を持たない。


仕方がないので、部屋の鍵を開けて入ってきた。そこでドアの真横、死角に隠れていた仲間が、まず1人目に飛びかかり、床に押さえ込んだ。

次に、2人目の警備は慌てふためいて、応援をよぼうと外に出るドアの前に向かって走る。

まずい! と思った時に、まるで稲妻のように警備を追いかける影が目の前を横切った。ニコだ。

あっと言うまに後ろから警備にのしかかり、続いて追いかけた仲間数人が、その上に体重を思いっきりのせた。



安堵して、思わず私はため息をついた。それを見たニコの友人が、私の背中をポンと叩き合図した。


先に、赤い服の囚人の女性と子供を外に出した。

その後、同じ部屋の赤の囚人は全員脱出し、隣の部屋だった青い囚人も半分ぐらい脱出した。



しかし、全体の4分の1の人数が部屋を出た所で、隣の部屋の残りの青の囚人と、部屋が遠かった赤と青の囚人が内部で暴動が起きはじ

めた。


先に他人が脱出するのが、許せない人が出てきてしまったのだろう。自分が同じ立場で施設に残っても、同じように不安になったと思う。



-----------------

気絶していた管理官が、騒がしさに目を覚ました。赤の囚人が部屋にいないことに気付く。そして、囚人が暴れ始めている事も。

抑えきれなくなった管理側が、一度に処理するためにやることはひとつだ。

これは、元々囚人でもあった管理官に、命の重さはない。それは常々国からも言われている。

死ぬ手前で生きながらえているようなである。もちろん家族はいない。




やることは、施設を燃やして廃棄することだ。

彼は手足が縛られたまま起き上がり、机下に潜り込んだ。廃棄用と書かれた赤いスイッチが隠されていた。

両手両足は縛られていたので、彼は顔と頭を使ってカバーを開け、鼻先でスイッチを押した。


彼は、奥歯に仕込まれた毒薬を飲んだ。この仕事に着く前に、国に手術をさせられた物だ。


これで眠るように死ねる。自分が燃えてることなんか気づきもせず。

この地獄も終わるのだ。

彼には今の世界に希望が無かったので、何の躊躇もなく毒薬を飲んだ。



施設内のライトが赤くなり、けたたましくブーーーッとサイレンが唸っている。

まだ逃げ出してない人間たちがパニックになり、地獄絵図のように叫び始めた。

金網を破ろうと男たちが踠いても、びくともしていない。



「なんかやばいぞ!! 急げ!! 走れ!!!」


ニコが出口で皆に声をかける。急ぐものの、皆我先にと走りだし、統率は乱れていて、余計遅くなっていた。遠くで罵声や怒声が聞こえる。

私は、まるで自分がここにいないかのように、ひたすら静かに、冷徹に物事を眺めていた。

これから何が起こるかわからないが、まずい状態になる人々を見て、感情のゆらぎを感じなかった。



そして、爆発音と共に、施設内に熱風が吹き荒れる。

赤く風が燃え上がった。夜明けの空に、太陽の様に燃え上がっている。

人々の叫ぶ声が一瞬聞こえたが、音がしなくなった。喉を熱風で焼かれ、即死だったのかもしれない。



脱出したのは、20人位だった。私、知人、女性子供、男性たち、ニコ。

女性と子供のほうが多かった。

施設の外は、地平線が見える何もない田舎の一本道だった。

暁の空が、薄く紫色になりはじめている。


私たちは、急いでここから離れ、遠くに走り続けなければならなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【仮】日系女性が世界崩壊後の場所で生き抜く @yuyu777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ