第2話 脱走

管理室から見られても、話していると悟られないように、背中の金網越しに作戦を立て、施設から逃げる話をした。



そこから5日ほど経った。


ドアの鍵を確認したり、監視カメラの位置を確認したりした。どうやら、監視カメラの数は少なく、最新鋭という訳でもないらしい。ドアの鍵は重いが古いものだった。


ニコから話を聞いたが、どうやら、世界的に食料難になり、電気やガソリンなどのエネルギー源がとんでもない価値になったらしい。世界的に荒廃が進んでいるため、施設的にもそんなにエネルギーを使わない、古い施設を使っているようだった。



「そ、そんな……」

私はショックを隠しきれなかった。


「おい。おまえマジで言ってるのか?ボケたふりしてるのか?」


ニコは不審な顔をした。何かを言おうとしたところで、隣りにいた友人が間に入る。

彼もほどよく日焼けし、体格も良かった。


「彼女はここに入れられた前の記憶がないんだ。ちょっとした記憶障害を起こしている」


ニコは舌打ちし

「おいおい。こんなやつが中心になって大丈夫かよ……別なやつと交代したほうがいいんじゃないか?」

と苦虫を噛み潰したような顔をした。


「酷い言い草。私はまだ何も失敗してないでしょ。」

私は鼻をフンと鳴らした。

とは言え、言い出したのは私なのと、他の同じ部屋の人はひどくおとなしそうだ。抵抗するだけ無駄だと思っているのだろう。また、私も特に脱出するために、管理官の人間にとってマイナスになるような事はしていないので、私が誰かと交代する理由は、ニコから見ても見つからないようだった。



そして最悪な事に、世界でエネルギー源の取り合いが起こり、戦争が勃発。ある国がバイオテロを起こし、人の脳に細菌を混入させ、「歩く死者」と呼ばれるものを作り上げた。細菌を殺す薬は完成したが、最初の国が滅びて30年が経っていた。何もかもが遅すぎたのだ。その細菌のせいで国がいくつも壊滅してしまった。

国の運営が動いていても、まともに機能しているとは言い難い。何もかもが足りないのだから。



収容所に入れられる前の記憶が無いため、なぜここにいるのか解らなかったが、どうやら、食糧難になり人口を人為的にコントロールするためらしい。収容所に入れられれば、早くて3ヶ月、長くて1年程度の命だそうだ。

昔は囚人を薬漬けにして、恐怖心を無くしてから処分していたが、薬さえも治療に使うため貴重になった今、今はそう言った人道的措置はない。


ちなみに、反抗したり違反行為をすると期間が短くなる。また、赤い囚人は模範囚で、ここで役立てば施設で働ける可能性もあるらしい。

だから。赤い服の囚人は誰も反抗しないのだった。

そして私は、ますますもって、早くここから出たいと思った。



2週間ほど経ち、管理室のドアが偶然開いているのを見た。

近くに行き、ガラス越しに見た机の上は、板ガムが置いてあった。

管理室の中から外に、むあっとした暖かい空気が流れる。クーラーが壊れているのか、管理官はシャツの胸元を開け手でを仰いでいる。


それを見て、管制官に話しかけてみた。



「管理室の中、暑くないの?」

「暑いよ。まったく、クーラーも調子悪いし鍵の調子も悪いし、オンボロ施設だなぁ」

「クーラー見てあげようか?」

「お前、直せるのか?」

「出来るかもしれない。見ないとわからないけど。」

「じゃあ頼むよ。一応、赤の部屋にいる囚人は模範囚だから、施設内の修理なんかはいつも頼んでるしな」



管理官が立ち上がってドアを出て、背をドアに向けた瞬間、急いで、机の上に手を伸ばし、ガムをポケットに隠した。そして、管理官の後について行く。静かに、ガムを素早く口に入れた。



赤と青い囚人を分ける扉、青い囚人と廊下を分ける扉、廊下から外に出る扉をくぐる時に、鍵穴に噛んでいたガムを詰め込んでおいた。


廊下に出て、青い囚人の部屋の横を通り過ぎる。青い囚人の部屋から、ニコが訝しげにこちらを見ていた。施設内はどこも同じように、赤と青の囚人で区切られている。施設全体で、100人いるかいないかという数だった。


クーラーは結局、室外機にゴミが詰まっていて調子が悪かったらしい。白人及び黒人男性の手では大きすぎて取り除けなかったので、代わりに取ってあげた。



詰めたガムを確認してまた部屋に戻る。ドアは閉じるとオートロックで閉まるタイプなので、引っかかってるかどうかぐらいしか管理官は確認しない。異物が入っているので、今は浅く引っかかっている状態だ。


そこから2日後の夜、管制室の管理官が居眠りしているのを見計らい、青の囚人の部屋の鍵をあける。カギの明け方は、青の囚人の中に盗みをしていた者が居たので、その人にやり方を聞いた。ピッキングのための針金やピンは無いが、同じ部屋内にいた男性から眼鏡を借り、眼鏡の耳かけの部分の針金を使って鍵を開けた。同じく、管理室の鍵も開けた。


囚人の部屋に隣接している鍵は重厚だが、管理室の鍵は安易なものだった。重罪人がいるわけでもないので、あまりお金をかけたくないのか、南京錠のようなものも見当たらなかった。どうやら、この世界では鉄も高価なようだ。


私は、仲間と一緒に管制室に入り、寝ている管理感の口を塞ぎ一気に押さえ込む。

洗濯物を細かく割いて作って口に布をあて猿ぐつわをし、手足を抑えた。

腰についているカギをうばった。そして、首を締めて気絶してもらった。


ニコが首の骨を折った方がいいと言ったが、私にはそれができなかった。頭はわかっていたのだが。

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