【仮】日系女性が世界崩壊後の場所で生き抜く

@yuyu777

第1話 記憶障害

「起きて! 大丈夫?」


男性の声に頭を揺さぶられ、水底から水面へと浮かび上がるように目を開いた。

目の前には、同じ年くらいのアジア系の男の人がいる。


気が付くと、赤い囚人服と、青い囚人服に分かれた収容所に入っていた。

日系の人種は、ぱっと見た限りは私だけで、他は彫りの深い顔立ちの人しかいなかった。


国籍も、肌の色も、男女子供もバラバラだった。ただ、老人はいないようだった。



白い屋根と、体育館のような床。小さな窓には紫外線避けのシートが貼られているらしく、真っ黒だった。時間はわからない。

金網の壁と天井から腰ぐらいの高さまであるガラスの壁で、服の色ごとに区切られた部屋。一番遠い部屋まで見通せるように設計されているようだ。腰から床までの部分は、普通の白い壁になっている。


私は赤の囚人服の部屋に入っていた。

赤い囚人服の方が数が少なく、部屋内に管制への扉があった。青の囚人服の人たちは、柄が悪い人が多く集まっており、赤い服の部屋とは別に、金網で区切られている。


金網の下は、物品の受け渡しができるように、15センチ程度の高さがある台形型の隙間があった。


先ほど起こしてくれた男性は、私の知人らしい。

らしい。というのは、記憶がところどころ曖昧で正確に思い出せないからだった。


知人は服がボロボロに引き裂かれて、血がところどころついていた。多少の切り傷はあるものの、今は平気らしい。

どういった経緯でここにいるのか思い出せなかった。


よくわからないこの施設から、私は「逃げたい」と思った。

管理室の人になにか言われた訳でも、虐げられた訳でもないが、とにかく、嫌な予感がした。


直感が警告を出している。ここにいてはいけないと思った。しかし、一人で脱走は難しい。



そこで、協力者を探すことにした。今すぐここを出たい一心だった。



赤い部屋の金網の向こう側、青の囚人服の人たちに向かって「そちらに、リーダーはいる?」と聞いた。


金網によりかかっていた、白人の男が「俺だ。」と答えた。ベージュブラウンの髪に白いタンクトップに無精髭を生やし、筋肉質だ。背中一面には、刺青が彫られている。


「ここから逃げたい。協力して」

「奇遇だな。俺達もだ。なにかいい案あるのか?」


「まず、この部屋につながってる管理室から情報を聞き出して、そちらに提供する。その代わり、最初に女性と子供を先に出すのを手伝って」

「……こちらは何をすればいい?」

「知人が着る、男物の服をちょうだい。服がボロボロなの。あと、感づかれて他の人暴れ出さないように、統制をとってほしい」

「いいぜ。お前、名前は?」

「……思い出せない」

「思い出せない?」


怪訝そうな声が背中から聞こえる。とは言っても、身長は自分より頭ひとつ分ほど飛び抜けているので、実際は私の頭上から聞こえている。


「さっき起きたら、ここにどうやってきたのかわからない。普通の事象は思い出せるし、単語も物の名前も分かるんだけど……」

「おいおい。大丈夫なのか?成功できるか?」

「でもやるしかないでしょ。他にやってくれる人がいたら別だけど。」


男が、ため息をひとつついた。そして、額に一房だけ垂れている前髪を、その太い腕で大袈裟にかき上げる。


「……そうか。俺はニコだ」

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