猫のモーツァルト
雨世界
1 ……音が聞こえる。
猫のモーツァルト
プロローグ
ある日、猫が笑った。
本編
……音が聞こえる。
ある日、私の目の前で猫が笑った。
笑うはずのない猫が笑ったので、私は本当にびっくりしてしまった。(それは本当に、人が笑ったみたいだった)
でも、それは一瞬のことで、それから猫は笑わなくなった。(それは『普通』なのだけど……)
私は猫が笑ったことを、みんなに教えてあげたかったのだけど、このまま事実をありのままに伝えたとしても、「そんなことないよ。嘘だよ」と言われて、私が嘘つき扱いされてしまうだけだと思った。(事実、そうしていたら、そうなっていたと思う)
だから私は、なんとか猫が笑ったことをみんなに伝えるために、証拠になるようなものを探そうと思った。
一番簡単なのは、今、私の目の前にいる猫を捕まえて、その猫がもう一度笑うことをみんなに見てもらうことなのだけど、今のところ、この猫がもう一度笑うような仕草を見せてはいなかった。(猫はむすっとした顔をしていた)
二番目の方法は写真をとることだった。
でも、私はカメラを持っていなかった。(だからこの方法は駄目になった)
三番目の方法は(これが最後の私の思いついた方法なのだけど)『猫が笑った理由を見つける』ことだった。
今のところ、このどこにでもいる三毛猫がもう一度笑うようなことはないようなふりをしているけど(猫はどこにでもいる、普通の笑わない猫と同じように私の前で振舞っていた)『この猫は確かに私の前で笑ったのだ』。
その笑い顔を私は確かに見た。
だからその猫が笑う方法を見つければ、あるいはその理由がわかれば、みんなの前でこの猫をもう一度笑わせることができると思った。
しかし、さっき猫が笑ったときと同じような行動を(と言っても私はその猫の顔をじっと、少し離れた場所から、正面から見つめていただけだけど)とったのだけど、やっぱり猫は笑わなかった。
猫じゃらしのような草を振っても、わっと、脅かして見せても、あるいは私が変な顔をして見せても、猫はちっとも笑わなかった。
そのうち、もしかしたら猫が笑ったのは、私の錯覚なのではないか、と私は思うようになった。(それくらい猫は笑わなかった)
日が暮れていた。
私は私のやっていることがなんだかすっごくバカらしくなって(猫が笑ったから、なんだというのだ)「もういい」と言って、立ち上がると(私は公園のベンチに座って、笑った猫のことをずっと観察していた)猫のいる場所から立ち去ろうとした。
すると、その猫が私を見て、「にゃー」と鳴いた。
「いつか、あなたの正体を暴いてあげるからね」たち去り際に私は猫にそう言った。
それから私はその公園に住んでいる三毛猫に「ばいばい」をして、それから自分の家に帰って行った。
それから少しして、私はもう一度、学校がお休みの日に猫のいる公園に行ってみた。
でも、もうそこには猫の姿はなかった。
どうやら、公園を管理している人に捕まってどこか遠い場所に連れて行かれてしまったようだった。(そんな内容の張り紙が貼ってあった)猫のいた場所には、猫の代わりに『猫に餌を与えてはいけません』と言う看板が立っていた。
こうして私は、もう二度と、笑う猫と再会することがなくなった。
「猫ちゃん。あなたはどうして笑っていたの?」
公園から帰る途中の道で、私は青色の空を見ながらそう言った。
……幸せだったのかな?
幸せだったから、猫ちゃんは笑ったのかな? (もし、そうだったらいいな)
そんなことを私は思った。
それから私は、あの日、諦めずに、珍しい笑う猫を捕まえて、家に連れて帰ればよかったと思った。
でも、やっぱり無理だったのかな? (私には野生の猫を捕まえるような度胸はないし、うちは猫は飼えないし)
それから私は猫のオーケストラと言う作品を読んだ。
それは図書館にあった一冊のあんまり人気のない絵本だった。(人気がないとは言っても図書館にあるのだから、それなりに読まれてはいるのだろうけど)
その絵本は真夜中に出会った捨て猫たちが楽器を拾って音楽を初めて、やがて、オーケストラを結成して音楽を奏でるようになる、と言う物語の絵本だった。
その絵本の中の猫たちはみんなが幸せそうに笑っていた。(あの三毛猫に似ている猫もいた。トランペットを吹いていた)
だから私は、あの三毛猫は公園の管理者に捕まったのではなくて、猫のオーケストラに参加したのだ、と考えるようになった。
そう考えたほうが悲しみが少なくなるからだった。
その日の夜。
私はベットの中で、猫のオーケストラが奏でる音楽を聞こうと思った。すると、真っ暗な夜の中から、そんな素敵な音楽が、どこからともなく聞こえてきた。
私はその真夜中の猫のオーケストラが奏でる音楽を聞きながら、ぐっすりとした安心できる眠りについた。
私はその眠りの中で、三毛猫の吹く不器用なトランペットの音に耳をかたむけていた。
猫の吹くトランペットの音はあんまり上手じゃなかったけど、猫は笑っていた。
幸せそうに、笑っていたのだ。
猫が『笑って』、私はなんだか、嬉しくなった。
猫のオーケストラの猫たちにはちゃんとみんなに名前があった。(バッハ。ベートーヴェン、ショパンなどだ)
トランペットを吹いている猫の名前はモーツァルトと言った。
猫のモーツァルト。
私はあの三毛猫の名前がわかって嬉しかった。(私が見たのはモーツアルト。猫のモーツァルト)
その日、私は猫になった夢を見た。それはとても楽しい夢だった。
それは、真夜中の猫のオーケストラに一匹の猫になった私が、猫のモーツアルトと一緒になって、トランペットを吹いて参加する、と言うすごく素敵な夢だった。
猫のモーツァルト 終わり
猫のモーツァルト 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます