短編として、多くの部分を読者の想像に委ねる作風です。
その『委ねられる感じ』が、海沿いを舞台にしていることとリンクして、実に清々しい。
主人公の過去は断片的にしか語られず、それゆえに『出会いと別れ』が重要な意味合いのあるテーマとして浮彫にされていく。このバランス感覚は必読ものです。
その視覚的な取っ掛かりとして、アジサイの花が登場します。海と砂浜だけだったら、素っ気ない作品になってしまっていたであろうところ、見事な彩を添えてくれています。
これから短編に臨もうという人間にとって、お手本にするべき重要な転換点、そしてヒントを与えてくれる、素晴らしい作品です。