不思議だけど、適温の優しい空気に包まれているかのような錯覚を抱きます。語り口調がマイルドなためでしょう。
作者と私とでは世代が二回りほど違うようですが、作中に登場するコミックの趣味が一緒で、旧友の文章を読んでいるような気がしました。ヴィンランドサーガもプラネテスも好きです。
でも、NASAに行ったのに、スターウォーズにもガンダムにも言及しなかったので、「やっぱり世代が違うんだなぁ」と、ちょっぴり残念。
後書きの文章には、賛同しつつ、羨ましくも思いました。人生の第四コーナーに突入すると、焦っても仕方ないのに、時々、焦燥感に駆られます。
作者には、これからの10年くらい、未来を手にする者の精神的余裕を大事にして貰いたいです。
短編にはMax2つが信条ですが、星3つ付けました。
なんというおいしいエッセイでしょうか。
リアルタイムで綴られるアメリカ横断旅行記。果てしなくまっすぐ続く道が目に浮かびそうな車の旅。
さまざまな目的地をディテールたっぷりに、しかも歴史やトリビア的な情報も入れて紹介してくれるのが嬉しい。そして時々出現する飯テロも悩ましい。その場所を知らなくても、その食べ物を知らなくても、一緒に体験させてくれるような文章です。道中で感じることを哲学的な人生観と絡め、ユーモアでうまく包んで語られるところもいい。このクオリティを旅の最中に書かれていたとは、感服します。
まるで同行させてもらっているような臨場感を味わってみて下さい。
2019年、大晦日をまたいでアメリカ横断を決意したAskewさんのリアルタイム・エッセイです。今とはだいぶ文体も違っていますね。
ホワイトサンズ国定公園の砂漠を見て、ヒューストンでNASAの宇宙センターに行かなかった替わりにニューオーリンズに連泊して童貞卒業したり、ケネディ宇宙センターに行ったり、観光案内として見るだけでも楽しめます。
しかしながら、西海岸でUberのおっちゃんからお勧めされたClub M✻✻✻✻✻✻(正式名称は本編)に行かなかったのは明らかに失敗ではないかと思います。試しに、某サイトでこのお店のクチコミを見てみると……
・ここは今まで行った中で最悪のクラブ。・ダンサーよりもウェイトレスの方が綺麗だった。・店員は誰もが失礼であり、ここへの入場料に$20そしてダンスを観るために$25も払う。・ここはゴミ箱、貴方はその金をゴミ箱に捨てることになるだろう。・最悪のストリッパーを見て笑いたい趣味がある人に向いている。・もしあなたがアウシュビッツがどのようなものだったかを探しているなら、ここはあなたのための場所だ。・この場所に星を1つ(※最低評価)であっても付けなければならないことに動揺している。・地球の歴史上最悪の場所。
どうやら手痛い体験は人を饒舌にさせる効果があるようです。
今のAskewさんなら、きっと迷うことなく入ったのでは? 入らないかな? どうでしょう?
人は失敗しないように生きて行くことが、必ずしも正しい選択とは限りません。当初この旅も、特に明確な目的があって出発した訳ではなかったようです。
Askewさん自身は、作中で旅の前となんら変わっていないと仰っていましたが、ラストまで辿り着いた読者には旅の前と大きく変わった物が何か分かるはずです。私はその行程を彼と一緒に旅してコメントを読み、擬似体験するうちに行動こそが人を大きく成長させる糧なのだと気付かされました。
このエッセイを読もうとする人に、私は自分自身を叱咤する意味でも次の言葉を送りたいと思います。
さあ、旅に出よう! 失敗なんか恐れずに!