第4話 厄介なお仕事 後編

「まあ、マスコミにぶちまける覚悟した時点で、組織が消しに来るのはわかっていたわ。まさか、こんな掃除のおばちゃんとは思わなかったけどね」


 リコさんは仕事道具でもあるハサミを取り出しました。やはり、武器はエクステだけでは無かったのですね。目視した限りではシザーケースから三本ありました。もし、使い捨てならば攻撃は三回。


「ええ、話が早いですね。ならば大人しく殺されてください」


「あいにくだけど、そんなつもりは無いわ」


 お互いに間合いを取りながら、ジリジリと迫ります。やはりいつもとは違い、隙はありません。

 ハサミを振り下ろしてきたのをモップで弾きます。予備のモップだからこれは少し硬度が落ちますが、それでも紫檀で作られているから武器を受けるには充分です。

 素早く彼女の横へ向かい、まずは挑発してみます。


「それにしても、かたき討ちにしてはあまりにもグレード低いですわね」


 私は横から攻撃を仕掛けます。


「はっ! お見透しよ!」


 素早くかわされてしまい、彼女の第二弾のカウンターによるハサミ攻撃をモップで再び受け止めます。


「あんたに言われたくないわ」


「二股、借金、たかり、と良いところがない男じゃないですか。政治家の娘とやらと結婚したら、あなた捨てられてましたわよ」


「結婚はただの紙切れ一枚の関係よ。彼はあたしだけだと言ってくれてたし、結婚後も付き合うつもりだったのよ。それを、あんた達が……!」


「やれやれ、セカンドでもいいという女でしたか」


 均衡を破るため、体をひねって振りほどきます。


「自分を安くするのはお止めになさい」


「だから、あんたに言われたくないわ! 誰がなんて言おうと彼は大切な人だったのよ!」


「話し合いは決裂ですわね」


 まあ、マスコミに接触している時点で助命は無理ですが、反省の色はないようです。これで心置きなく殺ることができます。


「あんたのように幸せな主婦にはわからないわよ!」


 そう言いながらリコさんがシザーケースのハサミを取り出します。これで三本目、目視した限りでは刃物はこれでラスト、あとはエクステなのでしょうね。

 ハサミを投げてきたので、モップで弾きます。しかし、その一瞬の隙を突かれました。彼女が回り込み、エクステを取り出し、私の首を絞めにかかろうとします。


「これで終わりよ!」


「フフッ、かかりましたわね」


「な?! これは!」


 先ほど、横に回った際にシザーケースのエクステの入っているであろう部分に強力なパイプ用洗剤を素早く注入しました。エクステの原材料は人毛。溶かすには十分な時間が経ちましたから、絞める前に千切れていきます。その前にぬるぬるとして絞められませんね。


「王手、でございます」


 予備モップの仕込み部分を素早く外し、急所目掛けて刺します。


「がはっ! ぐああ……あ……」


 リコさんはそのまま崩れ落ちます。


「主婦も大変なんですよ、子育てとか、介護とか。若い頃には夫の浮気にも泣かされました。立場によって悩みは変わります。それをおもんばかることなく妬むのはお門違いでございますわ」


 武器を素早く片付けながら彼女に話しかけます。


「来世では、もうちょっと男性を見る目を養った方がいいですわね……。もう言葉は届いていないでしょうけど」


 さ、長居は無用です。撤収しましょう。

 私は急ぎ足で駆けながら、独り言ちました。

「女はいろいろと悲しい生き物ですわね」

 私も若い頃は夫に泣かされた。その夫のために血にまみれた仕事をしている。それもある意味男に振り回されていますわね。

「ま、私が選んだ人生ですわ」

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