第3話 厄介なお仕事 前編
「失礼します」
本日はボス直々に呼び出しをされました。いつもは仲介者をはさむのですが、今回はどうしたのでしょう。
「ああ、キヨコさん。待ってましたよ」
私よりは年上と思われるこのご老人、表向きは人材派遣会社の社長、裏の顔は刑事的に処罰を加えられない人達を始末する組織『ガーディアン・ジャスティス』を仕切るボスであります。
私はボス直々にスカウトされたこともあり、パートでありながらボスと面識があるわけです。
「あの、私何か粗相をしましたか? 先日の仕事はちゃんと証拠隠滅しましたし、武器も持ち帰ってますし」
「いやいや、そういうことではない。新たな仕事だ」
新たな依頼? 不思議に思っていると、察したのかボスが切り出してきました。
「ただ、今回はターゲットは……残念ながら内部の人間だ」
「内部の人ですか?」
「ああ、先日、ある奴を始末したのだが、そいつは“社員”の恋人だった」
「まあ、そういう接点が強い人って、普通は避けるのではないですか?」
正規、パート問わず殺し屋の接点がある人は避けるのがセオリーです。そうしないと今回みたいなトラブルの元になります。たまに殺し屋同士がご近所だったりするケースもあるようですけれど、今回の件は始末すると厄介になるはずです。
「本来はそうなのだがな」
「何か含みがある言い方ですね」
「依頼人がとある政治家だったのでね」
「ああ、もしかしてアレですか。今、週刊誌で話題の人」
「察しが良くて助かるよ。まあ、その通りだ。政治家の娘が婚約まで行ったのだが、週刊紙に婚約者親子に借金トラブルがあるとスクープされた」
「あれはガセかと思ってましたが」
「いや、報道後、親子は政治家の元に行き、トラブルを解決したいからと資金の無心にきたのだ」
「まああ、恥知らずと言うか。週刊紙の内容は真実と言っているようなものですわね」
「さすがにまずいと思ったのだろう、うちに依頼が来て始末をしたのさ。今回は自殺に見せかけたが」
「ああ、あの人、うちで殺ったのですか」
「そして、やはりクズであった。そいつは二股しており、相手がよりによってうちの“社員”だったのだ」
「そんな事情が……」
「で、社員がうちを恨んできたのさ。逆恨みもいいとこだ」
「それで、その方を始末すると」
「ああ、その社員は組織を告発しようとジャーナリストと接触しているとの情報を掴んだ。元の依頼人の政治家も抑えてくれているが、このままだと明るみに出てしまうのでな」
「それで、なぜ私が選ばれたのですか?」
「この組織の社員の平均年齢は三十代だ。キヨコさんはこの組織でも年配だから、あまり他の殺し屋と接点が無い。つまり、面が割れていないことだ。それに、表向きは清掃員だからどこにでも潜入しやすい」
「なるほど、そういうことですか」
「それにこないだの貸しもあるし、成功報酬もかなり上乗せするが、どうだ?」
厄介な仕事ですが、報酬上乗せは魅力的です。夫の治療費、デイサービス利用、将来的には私共々、施設へ入る資金……お金はいくらでも欲しいです。
そういう訳で私はこの依頼を受けることにしました。
いつものように清掃員として潜入して、動向を探ります。
ターゲットはビルに入っている美容室のスタイリスト。普段はヘアカットですが、裏では命をカットしているようです。
“社員”の方は皆さん自分の仕事に合わせた
通常なら店内にこもりきりでしょうが、この美容室が入っているビルはお手洗いが共同なので店員も客も店の外へ出ます。その時がチャンスでしょう。とはいえ、いつものように昼間に片付けるのは難しそうですね。
それに、お手洗いは狭いので、いつものモップだけでは動きにくいでしょうから、別の
そうして、チャンスは巡ってきました。美容室が終わったと思しき夜の十時。
ターゲットが出てきました。まずはモップで襲いかかりますが、彼女は振り返りもせずにモップを片手で受け止めました。
「こんな時間に清掃員がいるはず無いでしょ。組織が消しにきたのね」
あらまあ、狙われてるのがわかってたのですね。これはやはり一戦交えることになりそうです。
私は素早く体勢を整え、予備のモップを持ちました。
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