スイーパー・キラー ~掃除のおばちゃんは殺し屋~
達見ゆう
第1話 自己紹介とお仕事
まずは自己紹介をしますかね。名前はキヨコ、六十六歳。夫は入院中だから一人暮らしの状態でございます。
年金生活者ですが、まだまだ体が動くので清掃のパートをしております。
そして、裏の顔は殺し屋。使う
なんで、この年になっても殺し屋をしているかって? そりゃ、夫の治療費を稼ぐためですよ。少しでもいい治療を受けさせたいじゃないですか。
それに、こんなおばあさんが殺し屋と思われないから潜入も楽なのです。
今回のお仕事は、なんと国税庁からの依頼だそうで、ターゲットはある会社の社長さんです。たびたび脱税を繰り返し、税金を徴収できずに困っているそうです。なんとか脱税の証拠を暴いて重加算税を課したのですが、今度は“たっくすへいぶん”という方法で税金を逃れてるとか。
税金が取れなければ、国の財政は困りますよね。医療制度だって成り立たなくなりますし、そうなると夫の治療だって立ち行かなくなります。
まあ、税金は詳しくありませんが今回はお国のため、ひいては夫のためでもありますわ。
そしてただいまターゲットの会社ビルに清掃のパートで潜入しておりますの。表向きはお掃除のおばさんですから、そりゃあ、誠心誠意を込めて掃除させていただきます。そうすることで相手の信用も得られて、本来は立ち入りできない部屋の入室も許可されてお掃除ができるのです。
そうして今回も社長室へお掃除に参ります。ええ、今回はゴミ清掃ではなく
「お掃除よろしいでしょうか」
ちなみにコンコンと二回ノックするのはトイレノックといって失礼なのですよ。ビジネスマナーでは三回ノックが正しいのです。こういう小さな積み重ねが信頼を得るのに大事なことです。
「ああ、お掃除の人だね。どうぞ」
ドアを開けると、
「打ち合わせ中でしたら、お掃除は後にいたしますよ」
「いえ、このままで結構」
そう言い終わらないうちに、秘書の男性は銃を取り出し、私に向かって撃ってきました。
おやおや、正体がバレていたのですね。
ちっ、しょうがない。二人とも殺るか。
あらやだ、はしたない言葉が出てしまいました。私は咄嗟に持っていたモップの柄で銃弾を弾き返します。
跳弾となった弾はそのまま秘書の眉間に入り、あっけなく倒れました。あらあら、何と手応えのない
「やはり、殺し屋か。くっ! 婆さんなので油断した」
社長が毒づくと懐から銃を取り出して連射してきました。まあ、日本なのに皆さん銃をお持ちなのですね。しかし、何発撃とうと私には無駄ですよ。私はさらにモップを振りかざしました。
「カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!」
全ての銃弾を弾き返し、今度はランダムに跳ね返ったので、社長の体や足に当たったようです。血を吹き出しながらその場に倒れますが、まだ銃を構えてきます。止めを刺さなければ。
「確かそれはベレッタM92のコンパクトMモデル。だから弾は8発しか入らないから弾は切れてますわよ」
「……!」
図星だったらしく、驚愕と諦めの顔をしている
「な、なぜモップで銃弾を弾き返せるんだ」
「もうすぐ死にますから特別に教えますけどね、これは特殊なチタン合金製なのですよ。まあ、使いこなすには鍛練が必要ですが」
ターゲットの元へつかつかと歩みより、モップの柄で思い切り
さて、任務完了しました。急いで逃げるとしますかね。帰りに夫の見舞いに行く予定なのです。
「あなた、具合はいかがですか」
「おお、お前か。まあ、今日は具合は楽だよ」
「そうですか」
今日の夫は顔色が良いので調子がいいのでしょう。
「ところで、パートは大丈夫なのか?」
「ええ、今日までの契約でしたから。次は未定ですからしばらくは毎日通えますわ」
「そうか、済まないね。病気しなければそんな仕事させなくても何とかなるんだけどな」
「お金のことは心配しないでください。遠縁の遺産が入りそうだから治療費はなんとかなります。それより、今日は花月庵のどら焼きを買ってきたのよ。一つくらいなら大丈夫でしょ。一緒に食べましょう」
「おっ! うまそうだな。」
お茶を入れながら、私は嘘をつくのが上手くなったなと心の中で独りごちるのでありました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます