Anti-Intelligence
日溜。
古代言語じゃないんだから1オリジンじゃなくて0からやろうや
「AIだ。AIしかない」
暫く呆けていた熊沢が急に立ち上がりそんなことを言いだした。ここ数日、アルバイト先でディープな機械学習のパラメータ調整に疲弊している山際が居合せなくて良かったと思う。
「それで、完成した強いAIに就活のグループディスカッションを乗り切ってもらうんですか」
既に就職先が内定している汀が茶化しにかかる。熊沢が4年、汀は現役2年ということからセンシティブな発言は部室では控えていた筈だが、先程MUSICUS!のネタバレを食らったのが結構頭に来ていたらしい。
それにしても、AIか。近年のバズワードとしてのそれを揶揄する場合を除いて、少なくとも部員でその呼称を使うのはそれこそ授業時くらいだ。人工知能の授業を担当する教員からすれば「計算機科学で研究の進んでいない分野をAIというのだ」ということらしいが。
「歴史は円環ではなく螺旋だと俺の指導教員も言っている」汀の発言は無視することにしたようだ。
「つまりルールベースへの回帰ということだ」
「……物事は順序だてて話そうな。まあ大した動機も理屈もないだろうし、もう提案を言え」
このままでは話が進むまでに朝になる。先を促すことにした。
「人工無能チャットボットの自作だ」
「知能! 知能は!」
「知能は幻想ですよ」
汀が〔スン……〕と無表情に告げる。多分広げない方が良さそうだ。熊沢に目配せする。おい、何故満足そうに頷く。
「そう、かつての失敗は人間に知能があるものとしてその再現を目指したことにある。だが人間の知能とやらは何なのかも分からずにそんなことができるものか、そこで我々は、」
言葉が途切れる。山際さん、チワっス。
「テメェ気持ち良くなりたくて適当こくなや。『エージェントアプローチ人工知能』で頭カチ割んぞ」
その細腕では持ち続けるだけでプルプルと震えてしまうであろう分厚い本の名前を挙げたのはクール系人格破綻者山際さん、満を持してのご登場である。
「アーハイ、チャットボットをね、作りたくなりまして、ハイ」
物事を大きく語ることによる気持ち良さは眼前の恐怖に霞んだらしい。
まあ、そんなワケで。これが彼女の誕生のキッカケ。人間でいうセックス。違いますね、ハイ。
Anti-Intelligence 日溜。 @hidden_alma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Anti-Intelligenceの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます