天気職人の本気

御子柴 流歌

空を美しく染め上げる者たち

 <起、あるいは気>

 

 松任谷由実から山下達郎にBGMが切り替わった、年の瀬迫る街角より。






「今年のクリスマス、どうかなぁ」


「何が?」


「ほら。ホワイトクリスマス」


 左腕に抱き着きながら、彼女は夢見がちに言う。


「んー、そう言われれば、雪のクリスマスって経験ないなぁ」


「でしょ? ホワイトクリスマスってすっごく憧れる」


 そもそもここはあまり雪の降る地方ではない。

 テレビやネットで見かける、大きなクリスマスツリーに雪が降っている写真。

 あれを思い浮かべてみる。


 うん、絶対に悪くない。

 もちろん、隣には。


「……じゃあ、サンタクロースにでもお願いしよっか? 今年のクリスマスプレゼントは雪の降るクリスマスにしてください、って」


「あはは、それいいかも」


 言いながらさらに強く腕を抱きしめると、暖かくて大好きな笑顔が降ってくる。







           ○

           ○





<承、あるいは象>

 

 天界に限りなく近いけど、たぶん違う。

 そんな場所より。






「まぁ、アレですよね。サンタクロースには天気操作なんてできませんよ、って話ですよ」


「全くだ」


 作業服のようにも見える白の上下にペンキのような質感のカラフルな塗料を付けたまま、苦笑いを浮かべる。


「ただでさえ暑い街に雪を降らすなんて、どれだけの労力が必要だと思ってるんでしょうね」


「全くだ」


「少しは『なぜ降らないのか』を考えてほしいものですね」


「全くだ」


「さっきから同じことばかり言ってますよ?」


「……」


 無言を返され、小さくため息をつく。


「しかし、だ」


 思わず姿勢を正す。

 今日初めてテンプレートから外れた発言だ。

 少し驚く。


「『降らせることができない』などと思われるのは、気に食わないな」


「ええ、そりゃあ」


 ――名が廃る、というものだ。


「よし。一番いいのを使うぞ。久しぶりに大規模なのをやる」







           ○

           ○






 

<転、もしくは天> 


「ちょっと!」


 電話がつながるなり、受話口から大声が響いてきた。


「待って。とりあえず待って」


「待ちくたびれたからこれだけ大声になるの!!」


「だって……、それは仕方ないだろ。猛吹雪になって電車止まっちゃってんだもん」


「電車がないのならタクシーを使えばいいじゃない!」


「……無茶言うな」


 ここから都心に行くまでにどれだけの運賃を取られるのだろうか。

 僕の財布の紐は伸縮性抜群の新素材ではない。

 この時期、紐が緩んだ財布を持っている人なんて、それこそだけだろう。


「だったら、そっちからタクシーで来るか?」


「……ごめん」


「いや、謝らなくてもいいんだけどさ」


 気が立つのも十分わかるんだ。










 その後の話し合いの結果、「明日雪が止んだらデート」ということになった。


 しかし、何ということだろうか。


 周辺地帯全域の交通を完全に麻痺させた予想外の大雪は、結局クリスマスが終わるまで続いた。

 






           ○

           ○






 

 

 

 

<結。>


「ホワイトクリスマスってこんな感じなんでしたっけ?」


「知らんな」



 

 

 

 

 

 

 

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