第6話

私には、お姉ちゃんが居た。

喘息持ちの私をいつも気遣ってくれる、陸上部のエース。

2つ上の、自慢のお姉ちゃん。


突然、死んでしまった。

私と、お姉ちゃんと。2人で出かけた日、2人で行ったカフェに黒い車が突っ込んで、目の前にいたお姉ちゃんは、一瞬にして黒光りした車に入れ替わった。


一瞬で、一瞬で奪われてしまった。

お姉ちゃんの命は一瞬だった。

あぁ、こんなに儚いんだって。

人間って、どうしてこんなにも弱いんだろうって。


泣き叫んだ、泣き叫んで、過呼吸になって、意識がなくなった。


次に目を覚ましたのは病院で、お姉ちゃんはもういなくなっていた。

お葬式は終わっていた。1週間も寝ていたのだ。

お姉ちゃんはもう、いない。


私にはお姉ちゃんが居ない。


少しでもその穴を埋めようとして、自分で埋めようとして、走ってみた。

全然、ダメだった。遅かった。無駄だった。

周りに心配されるだけだった。

親に見放されるだけだった。

スキに漬け込まれただけだった。

その愛すらも、私は愛せなかった。


私はお姉ちゃんしか愛せなかった。


お姉ちゃん以外に愛される資格はなかったし、お姉ちゃんに愛して欲しかった。


無茶をするようになってから3度目。

夢を見た。

お姉ちゃんが手を伸ばしていた。

真っ黒な世界に、私を引き摺り込もうと、手を伸ばしていた。

私はその手をつかみたかった。


この世界にはお姉ちゃんはいない。

この世界で生きる資格は私にはない。

この世界で愛される資格なんてないし、愛するつもりもない。


手を、掴めなかった。


私はお姉ちゃんの隣にいたかった。逝きたかった。

何度も逝こうとした。

その度に私を愛してくれる彼は、ありがた迷惑にも、助けてくれてしまった。

好きなことに変わりはなかった。

ただ、お姉ちゃんへの気持ちには、勝てるはずもなかった。


次、目が覚めてしまったらもう、自分からお姉ちゃんのところに逝こう。

遠回しに、お姉ちゃんが迎えに来てくれるのを待つんじゃなくて、そう。自分から。


結局私は失敗した、目を覚ましてしまった。

目を覚まして、彼の涙を見た。


…なんとも、思わなかった。


もう私にはお姉ちゃんしかなかった。お姉ちゃん、だけだった。

何もかもが全部まやかしで、私には最初からお姉ちゃんしかいなかった。


好きだった、愛していた。


だから私は退院の日、制服を着て病院の屋上から飛び降りた。

彼は、部活帰りだった。

私が落ちたすぐ近くを歩いていた。


最後に聞いた言葉は、私の名前を呼ぶ彼の声。



最後まで、お姉ちゃんの声は聴こえなかった。

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アイノカタチ 夕凪 @Mio_ai

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