第49話 君臨する一族
ザルブベイル帝国の帝都である“ギウギルス”は活気に満ちあふれている。フィルドメルク帝国の虐殺から逃れたザルブベイルの領民をザルブベイル一族が保護したことでギウギルスの住民の二割は生者である。
ザルブベイル関係者はザルブベイル帝国において支配者であるのはもちろんである。被支配者は当然旧フィルドメルク帝国の者達であり、フィルドメルク帝国の者達は昼夜の別なく農作業に従事させられており、ザルブベイルの生き残りの領民達に衣食住を提供し続けているのだ。
しかし、フィルドメルクの者達の中でも支配者層以外の税を納める者には、基本的にザルブベイルの者達は不干渉を貫いており、そのすべてが地獄の苦しみを味わっているわけではない。
日々の糧は旧フィルドメルクのアンデッド達が賄うために、生き残りの領民達はそれぞれ好きな活動にいそしむようになった。文化活動にいそしむもの、科学の発展に没頭するものなどそれぞれの活動にいそしむようになったことがザルブベイルの発展に大きく寄与することになったのだ。
生者達のアンデッドとなったザルブベイルの者達への態度は元々の仲間と言うこともあり忌避感はほとんどない。むしろ、自分達を救い保護してくれたとして尊敬の念を集めている。
特に現皇帝であるオルト一家に対してはもはや神のように崇めているぐらいである。
「よぉ、エリック。今日は顔色が良いな」
「良いわけないだろう。俺は死んでんだぞ」
「あはは」
帝都のあちこちで生者がアンデッドとなった仲間をからかい、逆にアンデッドとなった者達が生者をからかうという光景は珍しいものではない。
もちろん意思を持つもの同士である以上、衝突することもあるのだがその場合はザルブベイルの司法省が公正な裁判を行うことになっている。
生者も死者もザルブベイルの者達であれば等しく裁かれる事になっており、オルト皇帝の支持は圧倒的なものがあった。
民衆の支持を得るには公正な税と裁判があれば良いという事をオルトは守っているのだ。
まぁ公正な税制度という点で言えばザルブベイルの者達は日々の糧のために働く必要がないために不公平な社会なのかも知れないがそのような事はザルブベイルの者達にとって些細な事なのだ。
「よくもここまで復興できたものね」
エミリアはアミスとヘレンを引き連れて帝都を歩いている。エミリアは一応変装しているのだが、周囲の者達はみなエミリアの存在に気づいている。変装をしているときは気付かないフリをするというのが帝都の民達にとって暗黙の了解であったのだ。
「お嬢様」
そこにエミリアに声をかける少年がいた。少年の手にはタレがかけられた牛串が握られている。
「シュクル、お嬢様という言葉は使わないようにと言ったでしょう」
アミスがシュクルを窘めるとシュクルはバツが悪そうな表情を浮かべた。その表情を見てエミリアが顔を綻ばせた。
アンデッドとなったシュクル元第三皇子はエミリアの従者となっていたのだ。シュクルの最後はザルブベイルの間で大いに広まっており、エミリアの従者となる事は好意的にとらえられていたのである。またエトラはエミリアの兄クルムの従者となっており、こちらもシュクル同様に好意的に迎えられていた。
「良いのよ。それよりもその手にあるのは私にかしら?」
エミリアは微笑みながらシュクルに問いかけるとシュクルは一転して顔を輝かせた。
「はい、お嬢様にと思って買ってきました」
シュクルはニコニコと笑顔を浮かべながらエミリアに牛串を差し出した。エミリアはそれを見てニッコリと微笑むとシュクルから牛串を受け取った。
エミリアはニコニコとした表情を浮かべながら受け取った牛串を食べる。牛串という庶民的な料理であってもエミリアの洗練された所作によりまったく下品に見えないのは流石と言うべきであろう。
「美味しいわ♪」
「はい♪」
エミリアの感想にシュクルは嬉しそうに微笑む。この辺りは仲の良い姉弟のようであり実に微笑ましい感じがする。
「エミリア様はシュクルに甘すぎますよ」
「まぁまぁ、アミスったら妬かないの」
アミスの小言にヘレンが即座にからかう。このやり取りにエミリアとシュクルは微笑んだ。この一連の流れはこの四人のいつもの展開なのだ。
「シュクル、そんな事ではエミリア様は守れませんよ」
「そんなことはありません!!」
アミスの言葉にシュクルは真面目な顔になるとアミスを見てしっかりと返答する。
シュクルの言葉にエミリアは嬉しそうな表情を浮かべた。
「
シュクルは続けて宣言するとエミリアの頬に僅かながら赤みが差した。それを見てアミスとヘレンの顔が綻ぶ。
十年という年月は何もかも変えてしまう。エミリアとシュクルの関係も十年前から変化の兆しを見せ始めているのである。
(次の十年はどう変わるのかしらね)
エミリアは街の様子を見て心の中で問いかける。死者の身でありながら未来に思いを馳せると言う事に対してエミリアとしても不思議な感情が出てくるというものである。
(まぁなるようになるでしょうね)
エミリアは街の賑わいを見てそう顔を綻ばせた。
* * *
「エミリアはまた街に行っているのか?」
「はい。いつもの三人を連れてます」
「仕方のないやつだな」
「良いではないですか」
皇城のバルコニーでザルブベイル帝国皇帝となったオルト、皇后のエルザピア、嫡男のクルムがいた。
「まったく……父上も母上も相変わらずエミリアに甘い」
クルムはやや憮然とした表情を浮かべて両親に苦言を呈する。それを見てオルト夫婦は苦笑を浮かべた。兄であるクルムもまたエミリアに対して十分に甘いのだ。
「エミリアとシュクルはお似合いとは思いませんか?」
エルザピアはクルムの苦言から話を逸らすように話題を振る。
「そうだな。エミリアの横にシュクルがいても良い頃かも知れんな」
「まぁ、最近のシュクルのエミリアに向ける視線には熱というものが少々過剰なのは否定できませんね」
オルトとクルムもエルザピアの意見を否定する事なく当たり前の様に受け入れている。アンデッドである者同士が結婚したとしても子を成すことは不可能である。生者の理から逸脱したアンデッドという存在である以上、子孫を残すという事は不可能であるのだ。
しかし、それでも意思がある以上、恋愛感情が存在しないわけではない。生者の理から逸脱した存在でありながら、死者の理からも逸脱した存在がザルブベイルなのである。
「我らの帝国もいずれ終わるときが来よう」
オルトの言葉にエルザピア、クルムは静かに頷く。
「私の中の十年前の憎悪の念が少しずつ静まり始めているのを感じます」
「ええ、私もです」
「その通りだ。我らがアンデッドとなったのは呪印によるものであるがその根幹にあるのは憎悪だ。それが無くなるということは……」
オルトの言葉に二人は静かに頷きクルムが口を開く。
「我らが存在できなくなるという事ですね」
クルムの言葉にオルトは頷く。
「ああ、そしてそれは正しい事なのだろうな」
オルトの言葉にはすべてを達観した響きがある。生者にとって最も恐ろしい死というものを乗り越えた事による達観であると言えるかも知れない。
「だが、我らはまだまだ消えてやるつもりはない」
オルトの言葉にクルムとエルザピアは即座に頷く。ザルブベイル一家の顔には溢れんばかりの覇気が漲っている。
「『死は終焉』それが神が定めた理だ。ならば我らはそれに抗わねばならんな」
「ええ、神が定めた理とやらが絶対でない事は我らが証明しましたからね」
「そうだ。神などこの世においては何の役にも立たぬ事を我らが証明した。神がいても構わぬが大人しく引っ込んでおけば良いのだ」
それは『世の正義』に裏切られた者達における反逆であった。神とやらが存在し本当に正義を執行するというのならば自分の定めた理を公然と破るザルブベイルを滅ぼすはずである。
ところが十年経っても神罰とやらは一向にザルブベイルを滅ぼさない。これは神が無力なためか怠惰なためか、存在しないか、無関心なためかそれはわからない。だが、干渉をしないという事実だけがあるのだ。
「この世に神というものが干渉しないというのならそれはそれで良い。この世にいるものが自分の意思で行動すべきなのだ」
オルトは静かにそう言うと二人もほぼ同時に頷いた。
「いつか我らが消滅するその時まで我らは自分の意思で行動する。神如きに干渉などさせんよ」
オルトはそう言うとバルコニーから城下の賑わいへと視線を移した。彼らにとって神の意志などよりも遥かに大切なものが眼下に広がっていたのである。
ザルブベイル帝国はこれより四百年の長きに渡り存在し続けたという。長く繁栄を謳歌したが二代目皇帝であるクルムが、ザルブベイルの生者達に主権を譲渡するとアンデッドであったザルブベイル一党はその姿を消したのだ。
それにともないザルブベイル帝国は、ザルブベイル共和国へと名を変える事になった。
ザルブベイル一党がどうなったかはどの史書にも記述はない。一説には皆が満足して逝ったとも、一般人に紛れて生活しているという説もあるがいずれも憶測の域を出ない。
ただザルブベイル帝国の建国の伝承は為政者にとって大きな戒めとなった事も事実であった。
ザルブベイルは為政者の横暴、怠惰への報復の代名詞として長く使われることになったのである。
~ 完 ~
無実の罪で一族ごと処刑されたので甦って復讐しました。それはもう徹底的に!! やとぎ @yatogi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無実の罪で一族ごと処刑されたので甦って復讐しました。それはもう徹底的に!!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます