アイの戦機〜闘えないプログラム〜

文月紅凛

第1話 廃棄機【アイ】

 人類史、2200年代、人々は働かなくなった。AI開発に伴い。全自動化が進んだからである。それは戦争であっても同じことである。


 人と人ではなく、人工知能と人工知能のロボット戦争が主であり、国家の争いはどれほど高性能な戦闘ロボットを作れるかで争われ、大規模なお遊びと化していた。

 そこに戦争の意味などなく無意味に資源を尽くすだけである。そして日本も、その国の一つである。


「ドレイク博士。人型戦闘兵器の調子はいかがかな。」

「ええ、もう少しで完成しそうです。」


 日本のとある研究室。そこは人工知能を搭載した人型戦闘兵器の開発している場所。様々なコードで繋がれた高校生程の大きさをしたロボットがいた。


「私の開発した最高品ですからね。」

「楽しみですな。」

「ええ、私は休憩に入ります。その後最終調節です。」

「頑張ってくれたまえ、君は優秀な人物だからな。」

「ありがとうございます。」


 ドレイクという男は年老いた博士に礼をして、休憩にうつる。老人の博士と入れ替わるようにして、メガネをかけた妖艶な女性がコーヒーを持って研究室に入ってきた。


「お疲れ様です。ドレイク博士」

「おお、いつもすまないね。アンジュ助手」

「いえいえ、いつもの日課みたいな物ですよ。それより、あの人工知能どこまで進んでるんですか?」


「神崎博士にも似たような事を言われたよ。ほんと研究者たちは結論を急ぐ。」


「すみません。」

「いいんだよ、この子が出来れば戦争の理念が変わる気がするよ。」


「ですね。」

「よし、君が持ってきてくれたコーヒーを飲んで最終調節だ。」


 ドレイク博士はコーヒーを飲み干し、忙しそうにキーボードを打ち、コードを完成を目指した。しかし急いで書き上げた為か[enemy]と打つ所、[fellow]と打ってしまう。それに気づかずにコードを完成させ、研究者の皆に知らせた。


「遂に完成したんですね!」

「おめでとうございます!」


皆が拍手喝采をし祝った。


「次は戦闘実験ですね!」

「あぁ、そうだな。」

「名前はどうするんですか?」

「名前?名前はそうだな。【アイ】なんてどうだ?安直だけどいい名前だろ。」



 次の日、完成した人型戦闘兵器【アイ】の実験が行われた。


「それでは、人型戦闘兵器【アイ】の戦闘実験に移る。」


コードから外されて、大きな部屋に運ばれる【アイ】。起動を遠隔で行い立ち上がる。


「戦闘プログラム制御…フレンドリーファイアプログラム制御…敵識別プログラム制御…3感制御…オール…です。」


「よし、いいぞ。」

ドレイクはマイクを握り【アイ】に指示を出す。


「君の名前は【アイ】だ。そして目の前にいるのが敵だ。」


「敵…敵…」

【アイ】は目を動かして敵を探る。


「よし、今から戦闘を行ってもらう。敵を全て破壊しろ」


「はい。」

「それでは、実験スタートだ。」


 スタート開始の合図と共に、置かれていた自動戦闘機が動き出して、【アイ】に攻撃を始めた。しかしながら、【アイ】は、反撃するどころか、一歩も動かなかったのだ。


「おい、どうした! 【アイ】! 目の前にいるのは敵だ!」


 打たれ続けて、ぼろぼろになり、【アイ】は活動を停止した。博士が止めろと合図を出すのはもう、手遅れである。自身の最高作が、こんな風に失敗し、恥と悔しさと悲しさで、【アイ】を見ていた。


「くそう……っ、おい、データを集めろ。一回の失敗ぐらい。また作ればいい……」


博士は俯きながら、研究所を後にした。


「あれは…敵? 味方……だったのに、攻撃した……。フレンドリーファイアせいじ……正常だった……敵識別プログラムに異常……」

 壊れかけた意識の中で、整理する自身の敗北を。そんな中で、声が聞こえる。研究者達ではない者の声が。


[……きこ……ている。きこえ……てる?私の名は……マキナ。可哀想な、機械ちゃん…貴女はまだ、壊れるべきではないわ……]




 私の中に、誰かの意識?もう、長くはないかもしれない。

 そんな風に考えていると、強い光と共に【アイ】は、この世から、去っていった。

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