最終章

~最終話~


全貌が明らかに...。


渡辺から計画を吐かせれるのか。

そんな不安と小島への期待で感情が潰されそうな最中、インターホンが鳴る。


『ピンポーン』


テレビモニターに映っているのは佐伯だった。

出るのを躊躇った。


二度目のインターホンが鳴る。

前村は意を決し通話ボタンを押す。


「佐伯。どうした?」


「おぉ!修平!やっぱりまだいたのか。」


「あぁ、後輩に甘えてるよ。」


「開けてくれないか。」


「ちょっと待て。...今開けた。」


モニターの側にある解錠のボタンを押す。

エントランスの自動ドアが開く。


それから1分もしないうちに次は家のインターホンが鳴る。

分かってはいたが念のため玄関ドアの覗き穴から外の様子を伺う。

佐伯だった。


鍵を開け佐伯を児島の家に入れる。


「おぉ。」


佐伯にしては落ち着いた再開だった為少し違和感を感じた。


「わざわざ来なくても電話で良かったんじゃないか?」


「いや、お前の顔が見たくてよ。

今にも死にそうなお前の顔を。」


また冗談が始まった。


「それなら大丈夫だ。」


「そうかそうか。」


「上倉の真相は分かったのか?」


「ん?いや、結局わかんねぇな。」


「そうか...。」


『児島が失敗したか仮定が外れたか...

いずれにしても振り出しか。』


落胆の表情を見せた前村を元気付けるよう佐伯が言った。


「でもお前は自由になれそうだ!」


「本当か!?」


地獄から天国に。

また捜査が再開できる喜びを噛み締めた。


「あぁ。何とか俺が財布の事を話してな。」


「佐伯。本当に有難う。」


「いやいや、俺とお前の仲だろ?」


喜びに浸っていると一通の連絡が入る。

児島からだ。


『佐伯さん来てますか?』

『もし来ていたらなるべく長く話続けてください。』

『理由は後程説明します。』


スマホに映ったその文字に不思議に思った前村だったが、言われなくてもそうするとばかりに話始める。


「それにしても一時はどうなることかと思ったよ。」


「本当だよ。

俺まであたふたしちまった。」


「そりゃそうだよな。まさか同僚が殺人の重要参考人になるなんて。」


そんな話をし始めて30分が経った頃児島が帰ってくる。


「お疲れ。」


「お疲れ様です。」


児島は顔色が悪い。

そして佐伯の方ばかりを気にする。


「佐伯さん。ちょっといいですか?」


「ん?なんだよ。」


佐伯が立ち上がった瞬間だった。

児島が佐伯に掴みかかりこの上なくスムーズに手錠を掛ける。


「おい!何してんだ!」


前村は突然の事に驚きながらも声を張り上げた。

しかし手錠を掛けられた当の本人は抵抗する素振りもなく、むしろ何もかもを諦め脱力したようだった。


「児島!説明しろ!」


「詳細は所で話します。

前村さんも一緒に来てください。」


黙っていた佐伯の顔に少し笑みが溢れる。

そして微かに聞き取れる程の声で話始めた。


「もう少しだったのに。

もう少しでお前を自由にしてやったのに。」


「佐伯、どういうことなんだ?」


「もうどうでもいい。俺の敗けだよ。」 


それから何を聞いても返答はなかった。


外には複数台のパトカーが止まっていた。

その内の一つに佐伯は押し込まれた。

最後まで不気味な笑みを浮かべたまま。


四日振りに所に戻った前村だったが気を休める間もなく事の顛末を聞かされた。


児島が佐伯を取り押さえる2時間前。

渡辺と児島の面会が終わった。

タクシーを捕まえ必死の形相で所に戻った。


渡辺との面会は約40分。

思っていたよりもあっさりとしていた。


「児島さん。どうも。」


渡辺が話し始めた。


「どうも。」


素っ気なく返す。


「先日はすいませんね。

あの名前を聞くと嫌な記憶が甦ってしまってね。」


「久留米大翔の事ですか。

構いませんよ。そんなこと。」


「そうですか。

あの人は最後まで私の計画を反対した。

だからクビにしてやったんですよ。

どこで何をしているのか知りませんが死んでいないことだけを祈っていますよ。

人殺しにはなりたくないですからね。」


「人殺しじゃないか。」


冷静を装うもつい出てしまう。


「はい?」


「計画の事。分かりましたよ。」


「そうですか!遂に私の計画が世に出るわけですね!」


「なぜそんなに嬉しそうなんだ。」


「私の計画が世に出ることによって模倣する人間がいるでしょう?

そうなると悔しいですが少しでも達成感は得られる。」


「なら自分から公表すれば良かったんじゃないですか?」


「いや、それでは面白くない。

公安を動かしてまるでミステリーのようなストーリーを立てた方が面白いでしょう。

それに、もしお話ししていただく計画の内容が正しければ私からも餞別の情報をお教えしますよ。」


「ドラマじみたエンディングですか。

遊びじゃないんです。」


「前村さんも同じようなことを言っていましたよ。」


「取り敢えず計画の事、お話しします。」


「どうぞ?」


「8億もの大金を費やして行っていた研究は『クローン』の研究ですね。それも動物のような生易しい物ではなく、人間の。」


「ほぅ。...それで?」


「そこで当時、暴言や収賄、不倫騒動でバッシングを受けていた上倉宗治に白羽の矢がたった。

上倉宗治を連行し、殺害。

その後上倉宗治のクローンを作り家に帰した。」


「ふんふん。...なるほど。」


「だが、クローンとして模倣したのは見た目だけ。

人格は全く別の人間を取り込ませ以前の上倉宗治とは似ても似つかぬ人間が誕生した。

上倉の死体も上がっています。」


「なるほど...。」


20秒ほどの沈黙ののち放った言葉は。


「コングラッチュレイション!

その通りだ。

よく調べあげたね。

前村さんとお二人で?」


「そ、そうですよ。」


あまりにもあっさりと吐いた渡辺に驚き少し言葉がつまった。


「素晴らしい。」


この後渡辺が放った一言に衝撃を受ける。


「その計画の記念すべき第一号の『前村さん』が事件を解決したと。

面白いじゃないですか。」


「そう、前村さん...が。......?

第一号?」


「そうですよ?

私の計画そして研究成果を一番最初に受けてもらったのは前村さん、その人ですよ。」


「どういうことですか?」


「今ご自身で言ったじゃないですか。

クローンの研究をしていた。

人格を変えたクローンを作り出す計画だっただろう。って。」


「と言うことはつまり、前村さんは...。」


「そうですよ?あの人は私が生み出した最初のクローン人間です。」


「そんな...。」


「そこまではさすがに分からなかったですか。

ま、これが最初に言った餞別ですよ。」


「それを前村さんは知らないんですか。」


「勿論。彼の記憶は改竄していますから。

人間の細胞を研究していると人間は脆いもんだと知らされますよ。」


黙っている児島に渡辺が続ける。


「では、事の顛末をお話ししますね。

まず、この研究を始めたのは6年前です。

その頃貴方のお父さんである久留米と数名の役員とで研究を始めたんです。

最初の名目は臓器のクローン研究だった。

その研究を続けるうちに『人そのもの』を作れるのでは無いかと思い始めた。」


「異常だ。」


「研究者は皆異常者ばかりですよ。

そして、そう思った私はクローン人間の研究を一人で行っておりました。

そこに苦言を呈したのは久留米でした。

どこで研究の事を知ったのか知りませんが今すぐに止めろと言ってきたのです。

次の日には役員会議を開き正式に解雇しましたよ。

まぁ役員の内、久留米を除いて全て私の手中でしたから。」


「最低だな。」


「あははは。

それはそうと解雇した後は動きやすかったよ。

研究がどんどん進み、遂に人間のクローン研究が形になりました。

それが3年前です。」


「丁度不正が露呈した年ですね。」


「そう。

捕まる前私は実際にクローンを作ってみようと人選を行っていました。

そこで目をつけたのが当時騒動真っ只中の上倉宗治でした。

この政治家を生まれ変わらせることが出来れば次々と政治家の膿を消し去ることが出来ると。

ですが、オリジナルの人間とクローンの人間を同時に世に出すことは出来ませんよね。

そこで私はオリジナルをこの世から葬る事を決意しました。」


「それで上倉を殺したんですか。」


「嫌ですね。私は殺していませんよ?

そこでお願いしたのが前村さんです。」


「と言うことは前村さんが上倉を殺したと。」


「そうですよ。

彼は素晴らしい結果を残してくれました。

この世から上倉が居なくなってから3日経っても誰も動かない。

完璧な殺人を犯してくれたのです。

ですが、私も用心深くてね。

彼のクローンを作り記憶を全て改竄し、万が一彼が捕まるようなことがあっても私に繋がる証拠を一切残さないようにしました。」


「では、オリジナルの前村さんは貴方が殺したんですね。」


「いえいえ、彼は今でもこの世に居てますよ。

実は前村さんを葬るために新しい人を雇い準備をしていた矢先に逃げられましてね。

色々と調べてみましたがどこにいるのか...さすがに貴方達のように捜査権限も無いものですから。」


「どこまで調べたんですか。」


「分かったのは名前だけでしたね。」


「『前村』じゃないんですか?」


「えぇ、変わっていました。

恐らく顔も変えているんでしょうね。

何せ殺人犯ですから。」


「では名前は?」


名前を聞いた児島の顔から血の気が引く。


「確か...『佐伯健吾』でしたかね。」


「佐伯...健吾...。」


「もしかして知り合いに居ましたか?」


「いや、何でもありません。

取り敢えずこの会話を全て提出はします。

刑が重くなることは免れないですね。」


「構いませんよ。

どうせここを出たら命を絶とうと思っていましたから。」


その言葉を最後に児島が渡辺の声を聞くことはなかった...。


「俺が...クローン?」


渡辺の話を全て聞いた前村は急に立ち上がり数歩歩いたと思うとその場に倒れこんだ。

医務室に運び終えると児島は今回の衝撃の事件の顛末を報告書に纏めた。


『~case20321218~


11年前株式会社cellG設立。

立ち上げメンバー

・渡辺耕平

・久留米大翔

6年前の臓器クローン研究に携わる。

その頃平行して画策した渡辺の計画

【政治家クローン化計画】に苦言を呈した久留米は同社を解雇される。

久留米の動向は今だ掴めず。

3年の時を経て計画の核であるクローン技術を手にした渡辺は、当時騒動を起こす政治家『上倉宗治』のクローン計画を遂行。

その際オリジナル殺害の為『前村修平』を雇う。

殺害計画を完全遂行した『前村修平』を殺そうと準備途中に『前村修平』が逃走。

その時既に『前村修平』のクローンは完成済。

クローンである『前村修平』そしてオリジナルの『前村修平』(現:『佐伯健吾』)は同時期に公安二課に入所。

事件の顛末を知るオリジナルとそれを暴こうとするクローンによるセルジー事件は『佐伯健吾』の逮捕により解決。

後の佐伯健吾は当初『前村修平』を逃走させたのはその後自分の手でクローンを殺そうとした為と供述。

尚、第二のクローンである『上倉宗治』に関しては書類送検後保釈。

ご家族には誤捜査という説明で理解を得た。

                記:児島直』


『追記...


2042年12月。

都内のマンションで男性の死体を発見。

身分証から『佐伯健吾』と判明。

捜査本部は自殺と断定。

               記:前村修平』


貴方の周りにいる人はオリジナルですか?

それとも......。


~終話~

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セルジー @ulue12

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