異常論文
実在化する虚構、現実と非現実の境界が融解し、それは新たなる現実へ。
そう、異常論文です。
架空の論文の形式をとって書かれた短編アンソロジーという体裁をとっていますが、論文形式でないものもあります。そのほとんどが難解です。
・「決定論的自由意志利用改変攻撃について」円城塔
どうやら宇宙のどこかで、人類と謎の知性体による戦争が行われている様子。そこで発生した謎の事態に関する知性体のレポートを解説しています。各所に数式を用いたレポートを理解することは困難を極めますが、何かとんでもなく凄いことが書かれているのは伝わってきます。
・「空間把握能力の欠如による次元拡張レウム語の再解釈およびその完全な言語的対称性」青島もうじき
遺伝的な聴覚障害を共有し、石版を用いた視覚言語を操る少数民族、レウム族についての調査結果です。
研究者が持ち込んだARデバイスによってZ軸が加えられた次元拡張レウム語と、視覚言語を理解するための空間把握能力が欠如したレウム族の双子の姉妹についての興味深い関係が記録されます。
・「裏アカシック・レコード」柞刈湯葉
宇宙のすべての嘘が余すことなく収録されている裏アカシック・レコードの発見とその利用に関するレポートです。
すべての嘘が記された裏アカシック・レコードが社会および学術にもたらした影響、論理を武器に裏アカシック・レコードの内部構造を解き明かそうとする研究者たちの奮闘がユーモアを交えて語られます。
・「SF作家の倒し方」小川哲
ネタ枠異常論文です。いや、たぶん論文じゃありません。裏SF作家と称される闇の支配者(実在のSF作家)を列挙し、その倒し方を伝授してくれます。怒られないのでしょうか。
・「ザムザの羽」大滝瓶太
「ザムザの羽」と称される命題について、かのグレーゴル・ザムザと同じ名を持つ著者による論考が展開されます。論文は捻じれてやがて自伝へと変わり、自らを記述する著者はその記述の構造に囚われていきます。
付録として論文の査読コメントとその回答が記載されています。
・「四海文
四海文書なる謎めいた不気味なスクラップブックについて、何者かの考察がまとめられた文書に関する注解です。もとより複雑な構造を持つ本作ですが、奇っ怪な語彙を操る何者かのメモが本文に挿入されることにより、ホラーSFとして完成しています。
・「解説――最後のレナディアン語通訳」伴名練
とあるSF作家が開発した人工言語、レナディアン語で執筆された文学作品群「詩縫世界」に関する解説です。複数の作者による詩縫世界シリーズ作品の紹介と解説が進むにつれ、ある恐ろしい犯罪とその顛末が描き出さらていきます。本アンソロジーにおいてはかなり読みやすい作品です。
以上、二十二編の作品から一部を紹介させていただきました。
読書記録 Myノート 青澄 @shibainuhitoshi
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