第9話 エリアボス同時攻略作戦



 エスタの告げた、残りの全エリアボスの同時攻略。


 最初は突拍子もないことだと思ったが、あれからエスタが考えを話したところ、行けると判断した人数が過半数になったため、実行することになった。


 どうしても捨てきれないリスクに、キリヤなんかは反対していたが、俺としてはなかなか面白くて好きな発想だ。


 しかし、何故堅実的な性格のエスタが、捨てきれないリスクを押し切ってまでこの作戦を話したのかというと、そこにもしっかりと理由はあった。


 このゲームはリリース日には5万部しか発売せず、第二章開始と共に追加で5万部が発売されたのだが、その追加の5万部で参加したプレイヤーの中に、この十神に対してヘイトを持つ人がいるらしい。


 しかもかなりの数。


 第一章からの参加プレイヤーは俺達十神の、ユニークスキルだけではない、それを手にするに至る為のプレイスキルを良く知っている。


 しかし、第二章からの追加プレイヤーはそれを知らないので、ユニークスキルの力だけで周りからチヤホヤされていると思っているようなのだ。


 そういうのが無いようにするための、大会優勝者という確固たる力を示した人への景品だというのに。


 まぁそんなわけで、もう一度全プレイヤーに十神の力を示さなくてはならない。


 一応こういうときのために、プレイヤー達は俺達十神に挑戦して、勝てばユニークスキルが譲渡されるというシステムもあるのだが、いかんせん数が多いとそれもめんどくさい。


 だからこそ、今回のエリアボスを上手く利用しようということだ。



 まず、十神の権限である全プレイヤーへのメッセージ送信で、エリアボス同時討伐のことを知らせる。


 そしてそれだけでなく、十神よりも先に挑戦したい者は一緒にエリアボスまで連れて行くから先に挑戦してもいい、ということと、同時討伐の様子を生配信することも一緒に記載した。


 これによって、別に俺達でも倒せたし、とか言う輩を無くすことができるという作戦らしい。


 ちなみに俺とユキは、討伐ではなく配信担当として本部に残っていた。


 それぞれの戦場から送られてきた動画をここでまとめて、解説を交えながら配信することになっている。



「いやぁ、エスタさんもなかなか凄いこと言うよね。シロは上手く行くと思う?」



 配信の準備が整い、あとは皆がエリアボスの元へ着くのを待つだけになり、ユキが話しかけてくる。



「そうだなぁ、正直な話エリアボスはかなり強いからな」


「だよね、私達も結局ユニークスキルに頼ったようなものだもん」



 そう、森を燃やすという作戦を取れたのは、ユニークスキルで消せると判断したからだ。


 それがなければ森は燃やせず、あのまま逃げられた可能性は高い。


 つまり、言ってしまえば俺達もユニークスキルに頼って賢猿と戦ったのだ。



「しかも、残りのエリアボスの情報とすり合わせると、単純な戦闘力なら賢猿が1番弱そうだしな」


「あぁ、やっぱり?」


「あぁ、恐らく賢猿の最も厄介なのはあの反射神経と、一度見たスキルを即座に覚えることだろ。もし俺達より先に賢猿を見つけたプレイヤーが、攻撃するだけして逃げられる。というのを繰り返してたら、俺達は勝てなかっただろうな」


「そう思うと早い段階で倒せて良かったね」


「まったくだ」



 と、そこでエスタから連絡が入る。



「ユキ、テスト配信始めてくれだってよ」


「りょーかい」



 ユキが座っていた前にあるボタンを押すと、円卓の真ん中にスクリーンが現れる。


 そして、そこに4つの画面が映し出された。


 そのうち3つがエリアボスとの戦いを映すもので、残りの1つは視聴者のコメントなんかが流れる画面だ。


 3つの画面はまだ暗いままだが、残りの1つは既に並んで座る俺とユキが写っており、コメントももう流れ始める。



「あー、あー、聞こえてますかー?」



 ユキが声をかけると、[聞こえてるー][大丈夫ー]等のコメントが流れていく。



「大丈夫みたいだな、それじゃぁ先に色々話しておこうか」


「そうだね、まず私達が把握しているエリアボスの情報から」



 こうして、それぞれのエリアから到着の報告があるまでに、ある程度の情報を話しておく。



 まず、どのエリアに誰が向かったのか。



「えーっと、東にはキリヤさんとガスさん。西には、セナさんとレイさん。そして、北にはホムノテさんとエスタさんです」


「まぁこのメンバーはユニークスキルも有名だからな、今更説明はしなくても良いだろう」


「そうやってまた楽しようとして、エスタさんに怒られるよ?」


「いや、別に知らない奴も見てればわかるしいいだろ」


「だーめーです」



 ユキに頬を突っつかれ、このまま言い合いが始まろうとしたところで、東エリアの画面が入る。



『ほら君たち、痴話喧嘩はいいからちゃんと配信してくれよ?』


「痴話喧嘩なんかしてねぇよ、何言ってんだキリヤ」


「そうだよ、第一私達恋人ですらないし」



 配信を聞いていたのかツッコんでくるキリヤに言い返す。



『それは無理があると思うんだけどな…コメ欄見てごらんよ』



 呆れた様子のキリヤに言われ、コメ欄を見ると、[無理ある][公衆の面前でイチャイチャムーブは凄い][ほっぺツンツンは十分イチャついてる]など言いたい放題だった。



「…」

「…」


「それでどうしたんだ?キリヤ」

「それでどうしたの?キリヤくん」



 ハモった。



『相変わらず仲いいね君たちは』



 キリヤはあっはっはと笑っている。


 俺とユキは顔が赤くなるのを自覚し、下を向く。



『ほらキリヤさん、からかってないで報告してください。私達西チーム、エリアボス手前地点到着です』


『いやー、申し訳ない。二人の反応がおかしくってね。報告遅れたけど僕達東チーム、到着したよ』



 セナの声が聞こえたので顔を上げると、暗かった画面が全て付いていた。



『俺達北も到着した』



 ホムノテからも報告が上がり、これで全てのメンバーが持ち場に着いたことになる。



「えーっと、それではまずは十神以外のプレイヤーの方で挑戦したい人はどうぞ」



 画面の向こうからうぉぉぉぉ‼と鬨の声が聞こえ、多くのプレイヤーがエリアボスへと駆けてゆくのが映される。



「えー、ここで少し説明です。現在18時46分。今から20時まではこのように十神は手出ししません。それまではルール無用。誰でも何度でもアタックして大丈夫です」


「20時になったら十神が戦闘を始める。別にその後も戦っててもいいが、戦闘に巻き込まれても文句は言わねぇことだ」


「ほらまたそういうキツイ言い方して」


「…俺に愛想よくしろと?」


「…無理だね」


「…。おっ、エスタから情報だ」



 ユキの失礼な言葉を綺麗に無視する。



「えーっと、なになに?エリアボス3体の鑑定情報だそうです!」


「戦いが始まったから気にせず鑑定を使ったのか」


「エスタさんはユニークスキルの効果で画面越しでも鑑定できるからね」


「何気にそれもチートだよな。よし、送られてきた情報を貼るぞ」



 それぞれのエリアを映す画面の横に、エリアボスの情報が映される。



エンペラーゴブリン Lv98 東

種族 ゴブリン

HP 68000

MP 14000

攻撃 3800

防御 6400

魔攻 2400

魔防 1800

スキル

【帝王】



孤犬 Lv106 西

種族 コボルト

HP 97000

MP 23000

攻撃 4200

防御 1600

魔攻 3100

魔防 1200

スキル

【孤軍奮闘】



機械人形L-1631 Lvー 北

HP 80000

MP 80000

攻撃 5000

防御 5000

魔攻 5000

魔防 5000

スキル

【機械仕掛け】



 それぞれのボスの情報を目ぼしいものだけ簡単に表示すると、こんなところだ。



「うひゃー、強いねぇ。私達の戦った賢猿が本当に最弱っぽいし」


「だな、特に北のゴーレムが強すぎる。なんだステータスオール5000て」


「普通のゴーレムってどのくらいだっけ?」


「だいたい600~800くらいだな」


「えっ、違いすぎでしょ」



 コメント欄を見ても、やはり[想像の倍強いんだがw]とか、[運営やり過ぎ]等の声が上がっていた。


 確かに、第二章でこれはやり過ぎな気もする。まだまだ序盤だしもう少し弱くても良い気はするのだが。



「皆勝てるかな?」


「まぁ勝てないことはないだろ。もちろん十神が出しゃばる前に倒される可能性も十分ある」


「おぉ〜、皆がんばれ〜」



 ユキの声援が届いているのか、絶賛交戦中の中から再びうぉぉぉ‼と声が上がった。



「と、そろそろ19時だから、俺達はいったん席を外させてもらうぞ」


「ごめんね〜、現実の方でご飯とかあるからさ」



[えー、ユキちゃんだけ残ってよ][シロは別にいいけどユキちゃん見れなくなるのは寂しい]等のコメが流れる。



「こ、こいつら…!」


「あははっ、ごめんね、配信は続くし、私達もなるべく早く帰ってくるから、待っててね〜」



 そう言ってユキがログアウトしたので、俺もイラッとした気持ちを抑えてログアウトした。


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俺と幼なじみのゲームだけの繋がり〜ゲームの中くらい自由に生きます〜 凛桜 @rinzakura

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