第8話 十神会議


「それじゃぁ、まず何から聞いていこうか」


「とりあえず、昨日のこと最初から全部説明していただいて、それから皆で気になったとこを質問する。というのはどうですか?」


「それがいいだろうね、そのやり方は話がややこしくなりにくい」



 キリヤの問いにセナが提案し、それにエスタが反応した。


 【知帝】エスタは細身の男で、【X World運営】主催イベントの内、内政や戦争、領地経営まである街づくりゲームで開かれた大会で優勝した人だ。


 それ故にこのIWイリバーシブル ワールドでも、全プレイヤーが楽しく過ごせる様にと、このセンターシティの内政やプレイヤーの総括のようなことをしている。



「じゃ、そうしようか。ユキ、お願いできるかい?」


「あぁ、まず俺たちはーー」



 そうして話を振られた俺は、昨日のことをナタおばさんのクエストの内容から、ユニークスキルの白雪を使った理由までを、はじめから全て説明した。



「なるほど…。説明ありがとう、さすがシロだね、わかりやすかったよ」


「そいつはどうも」


「次は質問タイムなんだけど、ユキの説明が上手くてほとんど無いと思うから、どちらかと言ったら情報のすり合わせ、って形にしようか」


「それならまず私からいいかな?」


「はい、エスタさんどうぞ」


「シロの話の感じだと、そのエリアボスの賢猿と出会ったのは南エリアの奥深くってほどではないと思うと思うのだけど、そんなとこまで出てくるものなのかな?」



 エスタの質問に、主に南エリアの攻略を請け負っていたガスさんが答える。


 【不動】ガスさんはガタイのいい巨漢で、X Worldのイベントの中の重戦士や傭兵の大会で優勝した人だ。


 昔から多くのゲームで頼れる傭兵というキャラでプレイしており、今有名なゲーマーはほぼ全員初心者の時ガスさんにお世話になった人ばかりだ。


 もちろん俺とユキも昔お世話になっている。



「あぁ、燃えた森の辺りからも推測して、シロ坊があの猿と会うのもおかしくはない位置だな。あの猿、行動範囲アホみたいに広かったからよ」


「ガスさんは会ったこと無かったんですか?」


「会ったことはある。だがあいつは敵との力量差があると逃げやがるんだ。俺は会った瞬間逃げられてたからな、苦戦してたった訳だ」


「なるほど、だからこの前俺に協力を求めたと言うわけか」



 ガスさんの言葉に今得心がいったのか、そう声を漏らしたのは【妖迅】ホムノテだ。


 ホムノテは和服を着た男で、X Worldのイベントの内、刀や剣などの、近接武器全般を扱う人の大会で優勝した人だ。


 耐久と攻撃にステを振っているガスさんとは対照的で、ホムノテは身軽で俊敏値が高いので、あの猿とは確かに相性がいいだろう。



「まぁ、その前にシロ坊とユキ嬢ちゃんに先を越されちまったがな」



 そう言ってガハハと豪快に笑うガスさん。



「それに関しては悪かったと思っているので、放置した賢猿の素材に関してはガスさんとキリヤに任せます。ユキもそれで良いだろ?」


「うん、もともと賢猿が目当てだった訳じゃ無いからね。私もそれで良いよ」


「シロ坊よ、このゲームは全プレイヤー共通のオープンワールドなんだ。今更先越されたからってその程度じゃ誰も怒りゃしねぇよ」


「それはそうなんですけど、迷惑かけたことに変わりは無いので」


「そうかい、それならありがたく頂くとするかね」



 ふぅ、とりあええずこれでお詫びにはなっただろうか。


 確かにガスさんの言うとおりではあるが、たくさんの時間と経費を掛けて攻略していたのだ。


 ガスさんは良いと言っても、その仲間や他のプレイヤーからしたら良い気はしないだろう。



「それでは、賢猿に関しては僕とガスさんで管理するということで良いですか?」



 誰からも異論は出ない。

 沈黙は肯定だ。


「ではそういうことで。では次の質問に行きましょう」


「なら次は私からいいかね?」



 次の質問に移り、声を上げたのは【豪商】ホムノテだ。


 ホムノテは恰幅の良く、煌びやかな装飾品で着飾った男で、X Worldのイベントの内、商業系の大会で優勝した人だ。


 様々なゲームで、かなりのやり手商人として名が通っている人で、このIWでは、商人としてプレイしているプレイヤーの元締めのようなことをしている。



「この第二章になって初のエリアボス討伐な訳だが、なにかその指名定期クエスト以外に報酬みたいなの無かったのかい?」



「今日ログインしてからも確認したが、特に無かったな」


「ふむ、部分的ではあれど仮にもメインクエストのクリア。なにもないとは思えないのだが…」



 このゲームは運営からの情報が極端に少ない。と言う特徴がある。


 この第二章も開始と同時にメインクエストが発令されただけで、そのエリアボスの情報や、クエスト達成報酬も情報が無い。


 だからこそこうして、情報を共有して考察することがこのゲームではかなり大切だ。



「ちなみにだが、今回南エリアのボスを倒した事による森での影響も見られていないぞ」


「ボスは倒したが、全プレイヤーへのアナウンス以外は報酬も影響も何も無し、か」


「となると、第一章と同様に、章自体の完全クリアで報酬が出る。と考えるべきですかね?」



 ガスさんの報告にキリヤとセナが言葉を返す。



 ちなみに、第一章では、光龍を倒して完全にメインクエストをクリアしたときに報酬があった。


 まず、第一章を通して最も貢献した10人、つまり今ここにいる十神メンバーにこの【本部】の使用権。


 そして、全プレイヤーに【クラン】ないしは【ギルド】開設の権利が与えられた。



 【クラン】は2〜10人で作れるグループで、クエストの報酬増加だったり、クランでクエストやアイテムを共有できるようになる。


 人数が10人を越えると、クランは【ギルド】という扱いになり、ギルドクエストの発行や、個人からクエスト発行の依頼を受けられるようになったりと、それこそ良く小説なんかに出てくるギルドと同じ事が出来るようになる。


 十神の中では、ガスさんとレイさん、それとエスタ、ムルホムが、それぞれ大人数の巨大ギルドを開設している。


 キリヤとセナは、それぞれのパーティメンバーだけのクランを持っており、ホムノテとミカはクランはおろか、パーティメンバーも持たずに個人で活動をしている。



「なら、残りのエリアボスを倒さない限りは進展は無しね。そっちの方はどうなのかしら?」



 【魔女】レイが攻略組に話しを振る。


 レイはとんがり帽子にローブという、ザ魔法使いという格好をした女性で、X Worldのイベントの内、魔法使いの大会で優勝した人だ。


 それに南エリア以外の攻略をしているメンバーが報告を始める。



「僕の担当している東エリアは、遂に昨日、僕じゃない他のプレイヤーがエリアボスを確認。そのプレイヤーの報告によると、逃げることを前提に長距離からの鑑定の結果、ボスはエンペラーゴブリンってことがわかった。それと、群れでキングを初め、その他にもゴブリン系統の魔物がうじゃうじゃと、って感じらしい」


「私の担当している西エリアは、私のパーティが昨日ボスを確認しました。こちらは鑑定はしませんでした。見た目だけで言うと、コボルトの進化系のようでした。でも、コボルトの特徴である群れは確認できませんでした」


「俺の担当してる北は三日前にボスを確認。かなり強力なゴーレム種で、昨日準備をして今日倒しに行く予定だ」


「待ってくれホムノテ。ボスの確認なんて聞いて無いぞ」



 キリヤ、セナ、ホムノテの順でそれぞれ報告をしていると、情報を纏める役目をしているエスタからストップがかかった。



「報告なら倒してからでも良いと思っていた。他のプレイヤーは誰も山の頂に到達していないからな」


「それはそうだとしても次からは報告してくれ。ホムノテ一人で倒すのがキツい場合だってあるだろう」


「そうだな、気をつけよう」


「それで今日倒しに行くって言ってたけど、倒せそうなのかい?」


「恐らく。俺一人が心配で誰か着いてくるなら別に止めはしない」


「ホムノテが大丈夫と言うなら大丈夫だろう。残りの二人はどうだい?今日行けそうかい?」


「うん、大丈夫じゃないかな」


「はい、いけるかと」



 こうしてホムノテ、キリヤ、セナに確認を取ったエスタが、次にとんでもないことを言った。



「よし、それなら今日、残りの東西北エリアのボスを同時攻略しようか」

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