第7話 十神



 IWイリバーシブル ワールドのメインクエストは大きな章で分かれている。


 第一章が人類最後の街、今ではセンターシティと呼ばれている街の防衛戦。


 ゲーム発売と同時に始まり、昼夜問わず攻めてくる魔物をただひたすら倒し続ける。というものだった。


 そしてその第一章を全プレイヤーで協力し、ボスの光龍をなんとか倒すことでクリアして、現在は第二章。


 第二章は、センターシティを防衛したことで、活動範囲の広がった東西南北のエリアを、それぞれのエリアボスを倒すことで解放する。というものだ


 これがまた、それぞれのエリアが広すぎて、第二章はじまって二ヶ月経った今も、南エリア以外はエリアボスを発見すらできていなかった。


 まぁその南エリアのボスを俺とユキが昨日倒してしまった訳で。


 どうやらそのことが、賢猿を倒した瞬間に俺とユキ以外の全てのプレイヤーに[シロ、ユキが南エリアボス賢猿を倒しました]というように通知されたらしい。


 それだけでも話題性はバツグンだというのに、俺とユキはその過程で森を燃やし、その後始末で凄く目立つユニークスキルまで使ってしまった。


 それだけのことをして話題にならないわけがない。



「いや〜、見事にお祭り騒ぎだね」


「あぁ、正直ここまで騒ぎになるとは思わなかった」



 学校を終えてIWにログインした俺たちは、掲示板を見ながらこれからどうするかを話していた。



 自慢では無いが、俺とユキはゲーム界隈ではそれなりに有名な方だ。


 さらに、ことIWに関しては、いくつか開かれた【X World運営】主催のイベントの一つで優勝し、ユニークスキルを持っていることもあってかなり有名だと思う。


 そんな俺とユキは、第一章が戦闘続きだったこともあり、光龍戦以降はゆっくりしたくなって、第二章ではメインクエストに関わっていなかった。


 どうやらそれが他プレイヤーからは隠居した勇者とか、そんな感じで思われていたらしく、今回の件の話題性に輪をかける形になっていた。


 まさかそんな感じに思われていたとは知らなかった。


 ただ少し疲れたから、このゲームのコンセプト通り自由に過ごしてただけなんだけどな。



「とりあえず、キリヤ君に返信しよっか」


「だな…」

 


 昨日届いていたメッセを開く。



[これを見たらすぐさま本部まで来るように。色々と、ちゃんと説明してね]



「あれ、意外に怒ってない?」


「いや〜、キリヤがそうでなくとも本部だぞ。他の連中がなんて言うか…」



 俺の言葉にユキがあぁ、と声を漏らす。



 本部と言うのは、センターシティのど真ん中にある城の一室のことだ。


 このゲームのプレイヤーの中でも、様々な分野でトップの十人と、そのパーティメンバーだけが入室を許される部屋で、IWのあらゆる情報が集まるところだ。


 ちなみにその十人は、全員がX Worldイベントの優勝者で、自他共に認める実力者だ。


 まぁ、だからこそ周りのプレイヤーも勝手に【十神】なんて呼んで、憧れの対象にしている。


 たびたび俺たちの会話に出てきていた、キリヤ、セナ、ガスさんはその十神の一人だ。

 


「まぁ行かないとだよな」


「だねぇ、迷惑かけちゃったみたいだから」



 昨日俺とユキは賢猿の死体も置いてきた。

 それに野次馬が集まって、素材の奪い合いみたいになってしまったらしい。


 それをキリヤ達が統率して、収めてくれたみたいだからな。


 俺とユキは、ゲームでは自由に自分たちの楽しいようにやる。というのがポリシーではあるが、それは周りのプレイヤーに迷惑をかける、という意味では無い。


 迷惑をかける事態になってしまったら、出来る限りの対応をするというのが俺とユキの取り決めでもあるのだ。


 だから正直面倒くさいが、しっかりとキリヤ[今から行く]と返事をする。



「よし、そんじゃ用意して行くか」


「は〜い、皆に会うの久しぶりだね〜」


「おいおいそんな楽しそうにして、呼び出しの理由忘れるなよ?」


「わかってるよ、全部シロがやりましたって言うから大丈夫!」


「おい!なんだかんだユキだって乗り気だっただろ」


「なんのことかわかんな〜い」


「このやろ…」



 そんな感じでいつも通り話しながら、俺とユキはセンターシティに向かった。



〜〜〜〜〜



 そんなこんなで城の前までやってきた俺たちは、門番のNPCに話しかける。



「すみませーん、本部に用があるんですけど」


「なんだお前たち、本部は十神とその仲間しか入れんぞ」


「え、だから…」


「あ、そっか、シロ、着替えないと」



 予想外にあっさりと断られた俺が門番に説明しようとしたところで、ユキが話しかけてくる。


 それを聞き身なりを確認して、ユキの言葉に納得する。



「あぁ、そういうことか。『換装』」


「『換装』」



 俺とユキの格好が、麻布のどこにでもいそうな村人の格好から白と青を基調とした気品のあるものに変わる。


 それぞれ雪剣と雪杖も装備する。


 それを訝しげに見ていた門番の様子が劇的に変化する。



「!?こ、これは失礼しました!シロ様とユキ様でしたか!」


「ちょっ、声大きいっす、もう少し小さめで…」


「す、すみません。シロ様とユキ様でしたら大丈夫です。お通りください」


「ありがとう。行くぞ、ユキ」



 門番の許可が出た俺たちは、門番の声で人が集まってザワめきはじめてしまったので、ユキの手を引いて急いで城の中へと入る。



「いや〜、門番さんこの格好でわかってくれて良かったね」


「あぁ、まぁおかげで色んな人に見られたし、また掲示板に書かれてそうだけどな…」


「なんて書かれてるだろうね〜。シロったら私の手引いちゃったしな〜」


「あ、あれは仕方ないだろ。急いでたんだから」


「そういうシロの後先考えない行為で、いつもバカップルとか姫と騎士、なんてふざけた記事書かれるんだよ?」


「うっ、それを言うなら、お前が俺を年中からかってくるから、喧嘩ップルだの苦甘注意、とか言われるんだろ!」



 城へ入った俺たちは、この後の掲示板を想像して、責任転嫁し合っていた。


 会話で出てきたバカップルだの喧嘩ップルというのは、俺たちがネットで話題になるときにたびたび言われるものだ。


 いや俺たちはバカでも喧嘩もしてなければ、まずカップルじゃないんだけどな。


 何度も言っているんだが信じてもらえない。何故だ。



「というかユキ、本部どこだっけか」


「しょうがないなぁシロは……、私も忘れちゃった」


「まったく、たまに抜けてるところがあるよね。君たちは」



 城に来るのが久しぶり過ぎて、二人してうんうんと唸っていると、後ろから声をかけられた。


 この爽やかな声はーー。



「キリヤか」


「久しぶりだね、シロ」


「あっ、キリヤ君久しぶり〜」


「うん、ユキさんも久しぶり」



 十神の【勇者】キリヤだ。


 ちなみに勇者、というのも周りの人が勝手に呼ぶようになった十神の二つ名だ。



「門番から二人が来たって連絡があったから、迎えに来たんだよ」


「そうか、今ちょうど迷ってたから助かった」


「みたいだね、じゃ、皆待ってるから。行こうか」


「皆って?今日は何人来てるの?」


「ミカ以外は全員だよ」


「まじかぁ」



 つまり、十神がほぼ全員揃っているということか。



「皆忙しそうなのに、良く集まったね」


「あぁ、君たちが来るって言ったら皆予定を空けてくれたよ。本当はミカも来たがってたんだけどね。ちょうど頼み事をしていてね。凄いゴネてたよ」



 そう言ってキリヤはあははと笑う。


 おぉうまじか…。


 ミカがゴネるってそれはまずくないか?とも思ったが、キリヤが笑っているので気にしないことにした。


 まぁ、気にしても俺に出来ることと言ったら、その頼みごとの先で余計な死人が出ないことを祈ることくらいだ。



「人気者だね〜私たち」


「いや、脳天気過ぎるだろ」


「まぁ、そのくらい気楽でいいよ、皆怒ってないから」



 それを聞いて俺とユキは顔を合わせてホッと一息ついた。



「ほら、着いたよ」



 そう言ってキリヤは一つの扉の前で立ち止まると、一気にその扉を開け放った。


 そして、中で待っていた十神メンバーが一斉にこっちを見る。


 部屋には円卓が一つ置かれており、向かって奥から右周りで、

 【聖女】セナ

  空席

 【不動】ガス

 【魔女】レイ

 【妖迅】ホムノテ

  空席

  空席

  空席

 【知帝】エスタ

 【豪商】ムルホム

 となっている。


 キリヤが先に部屋に入り、セナとガスさんの間に座った。


 それをぼうっと見ていると【魔女】レイから声がかかる。



「あら?この空白の二ヶ月で忘れてしまったの?」


「あぁ、いや、大丈夫だ」


「久しぶりでなんか懐かしくって、ぼうっとしちゃってたみたい、ごめんね?」



 そう返して俺とユキは【妖迅】ホムノテの隣に座る。


 残った席は、さっきキリヤが今日はいないと言っていた【幻影】ミカの席だ。



 そうして俺たちが座ったのを確認して、キリヤが声を上げる。



「よし、それじゃぁ二ヶ月ぶりに【白騎士】のシロと【白姫】のユキさんも来たことだし、話しを始めようか」

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