第3話 スナックの猫

 入口の前に置かれた多肉植物の鉢は、注意深く見るとみなどこかが欠けていた。その主たちは、少し異世界の住人のようで所在無かった。

 鉱山あがりのかつてのエンジニアどもの溜まり場だったスナックは、ときたま老人会のためのレクリエーションになっている。だが一曲歌うのがここの流儀、仁義であることは昔から変わらない。

 スナックの二階には僕の祖母が住んでいた。猫を数匹飼っていた。

 でも血のつながりがあったのを知ったのはかなり後のことだ。

 二階の猫が死んで、その人もどこかへ行ってしまった。スナックが借金まみれだったことなど知る由もない。


 「猫の死骸はそのままにしている」と本当か嘘だかわからないことを子供にいう人だった。そういうことを言う大人は多かった。


 あの騒がしい時代に、大人たちは町おこしを何度か頑張ったみたいだけれど、そのことごとくがうまくいかなかった。たくさんお金を使って一度だけ冒険飛行家の名前を持つバンドが数曲歌ったことはある。一瞬吹いた都会の風に若者たちは熱狂し、そして大人たちはいつものようにどこかで酒を飲んでいた。


 さて、旅の仲間を登録するというのはなかなか難しいイベントだ。そのデザインをプレイヤーにゆだねる自由度の高さ。ゲームは面白くなるがゲームマスター、プログラマーが準備するものは格段に増える。周到な用意が必要だ。


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 よくきたね。坊やが勇者かい?

 ここは旅立ちの酒場だ。仲間を探してるのかい?奥のカウンターに話しかけてみな。


 誰を仲間にしますか?

 

 ▶女戦士

  エンジニア

  賢者見習い

  盗賊

  冒険飛行家見習い

  神官

  レンジャー

  家事手伝い

  スクリプター

  格闘家

  魔法使い

  まだらの猫

  

 焦るこたないよく考えてえらべよ、兄ちゃん。



 セーブポイントなのでここにも交流ノートを置いておきます。ノートに書かれたキャラクターの中から冒険の仲間を選んでください。後から来る冒険者のためにご自分のキャラクターを「酒場の客〇〇」として書き加えてくださっても結構です。初期ジョブも書いてください。選んだキャラクターは初期ジョブ含めパラメーターを必ず控えてください。忘れた場合は必ずここに戻ってください。ちなみにパラメーター総計の上限はサイコロを三回振ってカードを引き…

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 書き終わった。

「兄ちゃんも呑むかい」そういってご隠居さんが話しかけてくる。昼からだいぶ回っているようだ。

 僕は強迫からこっちアルコールもカフェインもまったくやらないことにしている。僕はどうにも意気地がないのでやらないんですよ、とお茶を濁してレクリエーションの場を後にした。

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