Recycle of the life #Last

「終了いたしました。成功です」


 望月さんの声が聞こえた。

 わたしは目を開けてみる。

 窓の外に、昼下がりの仙台駅前が見えた。

 いつもどおりの光景だ。

 でも、体調はいつもどおりじゃない。

 胸のあたりが軽くなっている。

 命の交換は、無事終わったらしい。

 わたしは覚悟を決めて、寝返りをうった。


「……」


 由樹が、隣のベッドに横たわっていた。

 まぶたを閉じ、ぴくりとも動かない。

 わたしは起き上がってみた。


「おお、このみ…」

「胸は、心臓は大丈夫?」


 心配する両親の声。


「全く問題ありませんわ」


 精一杯明るく声を出した。

 そして、足をベッドから出し、地面に立つ。

 多少ふらついたが、大丈夫なようだ。

 そのまま、由樹の眠るベッドに足を進める。


『昼下がりってのは、正午を少し過ぎたときを表してる言葉だ』

『移動する表現だと足を進めるってのがあるな。まあ別に移動する手段は車でもいいんだけどな』


 話した内容が、思い出がフラッシュバックする。

 そうしてわたしは由樹のベッドにたどり着き、手を握った。


 由樹は、冷たくなっていた。


「由樹君は、亡くなりました」


 望月さんがシンプルに告げた。

 その言葉はわたしの心に染み込んでゆき、

 視界がぼやけて、


「ひっぐ…ぐすっ…ゆき、さん…!」


 溢れて止まらない涙が、もう動かない彼の手のひらを、腕を、頬を濡らした。



「ここが、屋上です」

「ありがとうございます」


 わたしは、自分の足で非常階段を登り、病院の屋上に来ていた。

 エレベーターもあったが、自分の足で登りたかったのだ。


「…外の空気は、気持ちいいですわね。由樹さんも、こういう空気を毎日吸っていたんでしょうか。だとしたら、羨ましいですわ」


 風が吹き抜ける。


「お父様、お母様。わたしはここで誓いますわ」


 そう前置きして、胸いっぱいにきれいな空気を吸い込んで。


「わたしは、もっともっと勉強して、由樹さんみたいにたくさんの知識をつけますの!そして、由樹さんに恥じないように、いつかは天原グループを継げるようになってみせますの!」


 天国まで届くように、大きな声で。

 お父様とお母様と、そして由樹さんに誓った。


(見ててください、由樹さん)


「さあ、病室に戻りましょう」

「いいのかい?」

「ええ。だって、きっと由樹さんは見ててくださいますから!」


 屋上のドアが、バタンと音を立てて閉まった。

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リサイクル・ライフ キューマン @QmanEnobikto

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