保険商品としてのヒトの未来。

 現代の保険制度は、死亡保険以外の保険適用は被保険者の生存が絶対条件ですが、この作品では被保険者のクローンを製造することで、被保険者に怪我や障害、死亡等が生じた際の代替物としての身体を提供することを目的としています。

 作中では語られていませんが、未成年が被保険者の場合、その保護者は被保険者の同意を得なくても保険契約を結ぶことができます。むろん、受取人にも同様に契約内容の同意を得る必要はありません。

 未成年である娘が被保険者であり、その保護者が契約しクローンの受取人となる……と考えると、父親のように気味悪く感じつつもあくまで合理性の面では理にかなっているとはいえます。

 ただ、クローンとして製造された個体がどんな場所でどのようにして生育・保全されているかという背景を考えると、単純に考えて被保険者の数だけいわゆる「在庫」を抱えることになるので保険会社は管理が大変だろうなと思います。しかも既に成人が契約者になる場合、おそらく自分が被保険者受取人になるという契約が増えることも予想されますので、かなりの数になると考えられます。

 また、譲渡されたクローン個体に何らかの遺伝的疾患や重度疾病が現れたとしてそれも保険適用内となるのかどうか(クローン個体は生活動態まで同じという訳ではないので)や、クローン個体に諸権利が生ずるのはどの段階なのか(保険適用になった瞬間が妥当とは思いますが)といった部分まで突き詰めると、ヒューマンドラマとしてだけでなく、他の作品にはない社会学的視座によって旨みと奥行きの感じられる作品になったかもしれません。