I need you (季帆side)


カフェを出て 駅への道を急ぐ


「ああっ ああいうお店だから覚悟はしてたけど 痛い出費になっちゃったなぁ

 とは言え 学校じゃ何処に人の目があるか分からないし 落ち着いて話せる場所と

 なるとなぁ…」


先ほどまで居たカフェで支払った金額を思い出して溜息を付く

これだけで 今月のお小遣いの何割かが消えたのだ 違う意味で泣きそうだ



「泣きそうか…」


私の前で 制服を皺が残る程強く握り締め 心の奥に押し込めていたモノを

涙ながらに吐き出す彼女が思い浮かぶ


「叩き直す序に 言いたい事全部ぶつけてボロッボロにすればスッキリするかと思ったけど…

 そうでも無かったなぁ・・・」


私は 七海さんが嫌いだ

恵まれた境遇に居ながら それに気付かずに簡単に手放した上に 受けた恩を仇で返した

土屋くんを あれほど傷付けた事を 私は許せなかった 許せるはずがない

だから 私は 七海さんを徹底的に追い込んで絶望の底に叩き込んでやろうと画策していた

それくらいの報いは受けるべきだと その甘えた自己中心的な考え方が どんな結末を

呼ぶのが思い知るべきだと そう考えて・・・


「まぁ 土屋くんに止められちゃったから諦めたけど その鬱憤を 今回ので

 少しは晴らせるかと思ったんだけどけどなぁ…」


正直 彼女が どうなろうと私は気にならない 本当に 気にならない

樋渡くんと一緒に柚島へ行くと聞いていたが 明けて 学校で見た彼女は 憔悴している様だった

どこか上の空で 隣で気遣っている樋渡くんに 申し訳なさそうに無理に微笑んで見せていた


七海さんは 樋渡くんが そして土屋くんが どんな顔で貴女を見ているのか気付かないのだろうか?

また 保健室での時のように 怖いからと目を逸らすのだろうか?

そう考えたら もう駄目だった 私は 七海さんの想いを 自分が何をしてしまったのか

直接 話を聞き 序に個人的な鬱憤も晴らそうとしたんだけどねぇ

その目的は 半分は達成されたが もう半分は怪しいなぁ  だって 全然スッキリしてないから…


理由は 分かってる

私の感じていた憤りと言うモノは あくまでも 持っていなかった者からの一方的な見方であり

最初から持っていた者には持っていたなりの苦悩があったと言う事を知ったからだろう


私は一人だった だから見ているだけでも満足出来た

でも 土屋くんと想いを通わせ 触れ合えるようになった今では もう無理・・・ もうあの頃には戻れない

七海さんも 気が付けば大切な存在が すぐ隣に居た そう土屋くんが・・・

詳しくは聞けなかったけど 柚島へ行く約束が原因で 彼女は一人になるかもしれない恐怖を現実に感じ取ってしまったんでしょうね

それからは 自分の想いを押し殺して現状を維持する事だけに腐心してきた そう 自分が一人にならない為に


そして 自分の事を認めてくれる樋渡くんに惹かれ 多分 心の底からはしゃいじゃったんだろうなぁ

周りが見えなくなる程に・・・

うん 分かるよ 本当に良く分かる だって それは 私にとっての土屋くんだから

だから 七海さんの想いや行動は理解出来るし 過去の出来事やそれからの苦悩に関しても同情出来る・・・


でも 許せない


だって 一人を嫌がるくせに 自分の事しか考えて居ないから… 今 本当に大事な人を見ようとしないから…

今日 その事に気付いて貰えたらなと思う 

そんな事は無いと思うけど 樋渡くんに嫌われる事を恐れて 七海さんは全てを樋渡くんに話せないんじゃないかと思ってる

でも 全てを言えなくても ちゃんと想いを伝えれば 彼なら きっと察してくれる 私に靡かずに ずっと七海さんを見ていた彼なら…

それでも足りなかったら 私に八つ当たりでもすれば良い ぶつかってくるのなら 私も全力でぶつかってあげるから

気の済むまで 付き合ってあげるから


そうやって少しずつでも強くなれれば 土屋くんも安心出来る筈

そう 私は 土屋くんの為に応援しているんであって 私が本心で応援している訳じゃない

ただ・・・ ただちょっと 私と似てるかもなと思ってしまっただけだ うん…


「ああっ… 今すぐ土屋くんに会いたいなぁ…」


立ち止まり 夕日に染まる空を見上げて そう呟く

土屋くんとは 明日 会う約束をしている でも 今 猛烈に会いたい気持ちが湧き上がってくる

腕の中に彼の存在を確かめたい 彼の胸に顔を埋め彼の温もりを 匂いを感じたい…

そうやって お互いの中に1ページずつ存在を積み重ねていきたい 


「まだ人生のスタートラインにも立ってないんだもの すぐに土屋くんの中に居る七海さんに追い付いて

 追い越して見せるわ だって 私と土屋くんは これからずっと一緒に居るんだから」


一緒に大学へ通って 職場も一緒になれるかなぁ? そして 結婚して・・・ 土屋くんとの子供を産んで・・・

私 ちゃんと子育て出来るかなぁ… それがちょっと不安・・・ そして 二人で歳を取って・・・

おじいちゃんおばあちゃんになって・・・


「土屋くん まだずっとずっと先の話だし こんな事言うと「ふざけるな!!」って怒ると思うけど・・・ 

 私を先に逝かせてね…

 私ね 最後のその瞬間まで 生きる事を諦めないから 1分でも1秒でも土屋くんと一緒に居られるように頑張って生きるよ

 でもね 貴方が居ないと 私 頑張れないから… だから ごめんね 先に逝かせてね・・・



 あ~ そんな事考えてたら 余計に寂しくなってきた!! え~ん 土屋くんに会いたいよ~~~!!!」


土屋くんの家に向かいそうになる足を抑え込み 私は家路につくのだった…


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あとがきと言う名の蛇足


え~ 実は 4話に当たるお話が超絶難産で この連休中に仕上がるか非常にヤバい感じだったので

急遽 プロットにない この話をでっち上げました( ̄∇ ̄;

仕事から帰って 一気に書き上げて そのまま投稿しているので かなり粗い出来だと思います

若干 次の話を補足する部分を組み込むことで 流れは不自然じゃない様にはなってる…筈!w


で 最後の 「先に逝かせてね」発言ですが 当初 こんなセリフ考えてなかったんですよねぇ

最後は 七海と樋渡の事を考えてて 段々寂しくなってきて 「土屋くんに会いたいよ~」っで終わる予定だったのに

突然 ピキ~ンッ!と変なのが降ってきたみたいで(;´_ゝ`)

ただ なんとなく気に入ってしまったんで 無理矢理組み込んじゃいましたw

また 季帆像が崩れたかもですが 楽しんで頂ければ幸いです(*´Д`*)

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「きみが明日も生きてくれますように。」アナザーストーリー @Matenrow

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