終章 始まりの

Last Episode 《始まりの》 1 後日談


 終章 始まりの


 1 後日談


 後日談というか、なんというか、ここから始まるのだからやっぱり序章と言い直したほうがいいのか。まあ、そんな野暮なことを考えるのもやめにしたほうがいいほどに解放感と緊迫感に溢れた三人は落ち着いた外見で真夜中を歩いていた。


「それで、クロくんあの人たちは……」

「あ、ああーーなんとかなる」

「お兄ちゃんテキトーだね」


 と、後ろの凄惨な光景を見て三人は会話をする。二人も命の断崖絶壁を見て頭がおかしくなったのか、その光景を指さして普通に会話を進めていく。

 一体、これは彼が取り戻したいものだったのか、疑ってしまうほどに感覚がおかしかった。


「いや、なんで驚かないんだよ」

「「え⁉」」

「いや、そこで驚くか?」


 正気は消えたのだろうか? まあ死ぬような状況で生き延びた人間は正気を失うというのも、つまりはこういうことんなのだろう。彼はその事実を甘んじて受け入れなければならなかった。


「はぁ、まあいいよ」

「あ、うん」

「え~~」


 面倒くさい、それが故に適当に受け流す無神クロ。


「それ、クロくんのスマホに来たそのメールどうするの?」

「ああ、これか」


 右腕を胸元まで上げて、掴むスマホの画面を見せ、お互いに見つめあう二人。


「これって、なんだろうね、本気なのかな?」

「なに、お兄ちゃん! 高い、見れない、見せて!」


 頑張って飛び跳ねる幸を置いて、二人はその文字を丁寧に読んでみた。


「「今から、JRタワーに来い。世界の理を教えてやる……?」」


 は?

 という二文字が彼らを支配する。

 まあ、世界の理なんで四文字で釣られるほど馬鹿ではないが、それが何かの印字にも見えてしまって、どこか、行きたくならないわけでもない。その誘惑の狭間で彼は立ちすくんでいた。


「いや、行く」

「え、行くの⁉」

「なに⁉」


 それに対して驚くゆりと、一体何が何だか分からない幸はその背中を追うことしかできない。




 という流れで、彼らはエレベーターに乗っていた。


「いや、なんで来ちゃったの?」

「ここは行くべきだと、感覚が言っている」

「お兄ちゃん、展望台行くの?」

「そうだからね、待ってね……」


 義妹をなだめる兄、世の中の兄は妹にとても弱い。

 世界の理エレベーターはどんどんと上がっていく、普通のことではあるがその状況、動きがなぜか違和感を受けるほどに不快なモノであった。揺れや匂い、そして雰囲気。その何もかもがおかしい物へと変わっていた。そんな中で。


「しゃがめ」


 とクロは呟いた。


「へ?」

「え?」


 キョトンと間抜けな顔を向けた二人を地面に押し付けて、彼は右脚に手を添える。キラリと輝く愛銃にその思いを預けようとする最中、目の前の景色が開けていく。

 ガラガラと脆く開くドアの向こうには誰もいない。だが、そう理解した瞬間。



 バババババッババババババッバババババババババッバババアッバババババババンンンッ‼‼



 と、凄まじい銃撃音が連続した。

 クロは一気に身を屈め、その間を擦りぬいていく。幸い、その銃器は円盤型の自立飛行型であったためゆりと幸は犠牲にはならなかったが受け流された銃弾はエレベーターをゆらしていく。今にも落ちていきそうな、個室の中で二人は不安に駆られてしまう。


「っ、一体何なんだ?」


 クロは合間を抜け、その円盤銃器を地に叩きつける。構造は破壊され、銃撃も止まり、薬莢や基盤の破片が飛散する。エレベーターも何とかその場でとどまっていた。


「……おっと、これはこれは、本人の登場だね?」


 どこか、聞き覚えのある声だった。

 男気なんてない低めの爽やかな声、顔すら見えなかったあの仮面の男のもで間違いはない。一度聞いた声が自分の目の前に存在しているだけで、彼はすぐさま愛銃を取り出した。


「っお前は⁉」


 クロはもう一度、銃の引き金に指先を触れ、視線の先の声の主へと注目を寄せる。神経をそこに集中させ、その一つ一つを見抜こうとするすさまじい眼光で声の主を照らし出す。


「っと、まあ銃はしまってくれ、僕も戦いに来たわけじゃない」

「おい……お前、仮面の男、か?」


 そこで、にやりと笑い。彼は続けてこう言った。


「お、勘がいいね、いや——記憶がいいだけか、まあその通りだ。ご名答、無神クロくん」

「俺の名前、やはり知っていたのか」


 背に隠れる二人を思い、彼は全力でその視線を分析していく。


「まあね、有名だからね、この界隈では最強だって言われる大物暗殺者だしね」

「もう捨てた職だ、今はただの用心棒だよ」

「捨てた? はてさてそれは本当なのかな?」

「もちろんな」

「いやいや、その情報は抹消されてないけどなあ——というと、つまりは……ああ、そっか、そう言うことか、そういえばあそこにはタイムマシンなんていう物あったような気がするしな、君はその豊富なエーテルで実現させたということなのか……」

「知っているのか?」

「君が思ってる数十倍は頭がいいからね、そこまでは想定済みだよ。むしろそうなってくれなかったら困るがね」

「じゃあ、僕がここまで来るのもシナリオのうちだっていうことなのか?」

「まあね~~、ご苦労だったよ」

「っち……じゃあ仕方ねえ、想像通り、正解だ。僕は並行世界から来た他の無神クロだ」

「というと、ここの世界のクロくんは?」

「殺した」

「へえ、でもいいのかい? そんなこと言って?」

「は、今更だよ。殺しとはいつも関わってきたからな」

「いえいえ、むしろというか、二人の前であまりに下品かな、と」

「お前に言われる義理はない」

「はいはい、そうですか」

「まあな、」

「ではではここまでにして、本題はここからにしましょうか」


 そう言いながら手を叩き、後ろから現れた役人たちが彼の後ろへどんどんと整列していく。総勢二十名という極少数だが、その顔立ちは一皮剝かれた歴戦の面構えだった。


「というわけで、きみを招待しようと思う。無神クロくん、そしてその家族も。我らが秘密組織撲滅を目標に掲げた非政府裏組織「マリーゴールド」に加盟することを!」



「「「マリーゴールド?」」」


 初めて、三人がシンクロした瞬間だった。




<あとがき>

 皆さん御無沙汰です、ふぁなおです。

 この節は僕の小説を読んでいただきありがとうございました。ここまで来るのも長かったですし、ぼくの中では二度目の長編作だったので気合はとても入れて作りました。受験勉強でつくれなかったりして、結局この時期まで続きましたが、読んでくれた人々には感謝です。いっつも応援ハートマークをくれる方には特に、誰よりも、感謝を表したいです。これから書く続編や新作も読んでくだされば僕はとてもうれしいです。いずれ、商業化したら小説を送り付けたいと思います(笑)。

 では、この世界の平和の、彼らの世界の平和も願って、末永く小説ライフに身を染めることを願って、ここで筆をおかせていただきます。

 次作は学園ラブコメです。

 青春を取り戻しましょう。


 では、またの小説でお会いしましょう。

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世界最強の暗殺者に、世界は地獄を作り出す。 藍坂イツキ @fanao44131406

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