第二話 激戦、敢闘、カ=ントゥ 後編

(※筆者註:いやぁ、すぐ書くつもりが遅れた遅れた。まあ、こんなの誰も期待してないよね。ね?)


 さて、小川拳正統伝承者”魔女ウィッチ葡萄レイズン”の襲撃を受けた、マルセー=サンドヴァター教授と助手のホワイトラヴァーズは、”名も知らぬ荒れ寺”の中で背中合わせになっていた。

 周囲は魔女葡萄とその配下の偽ホワイトラヴァーズ軍団が囲んでいる。最悪の状況であったが、二人にはまだ余裕があった。

「いやはや、絶体絶命だね。ホワイトラヴァーズ君」

「まったくです、教授」

「しかし、まだ手はあるな」

「はい。多分、奴がいるでしょうから」

 そう言った後、ホワイトラヴァーズは偽ホワイトラヴァーズ軍団に向かって、こう吼えた。

「そこにいるのは分かっているんだぞ! 出て来い、”ユニークラヴァーズ”!!」

 すると、集団の中からホワイトラヴァーズを一重の出っ歯にしたような男――ユニークラヴァーズ(CV:〇石家さん〇)が、揉み手をしながら現れた。

「これはこれはホワイトラヴァーズはん。えろうお久しぶりやないですか?」

「ああ、確かに久しぶりですけれど。君、僕が来ることが分かっていてここにいるんじゃないの」

「それはまあ、渡世の義理というもんですわ」

「ふうん。集団の中に紛れていたら分からないとでも思っていたのかな」

「……」

「昔、見逃してやった恩を忘れたのかな。カ=ンサイ限定ならば良ししたはずだけれど、忘れてしまったのかな」

「……」

「君、僕の一族『ストーンメイカー』の力をお忘れのようだね? 君の会社『キチモト興行』とは和解したはずだが、そういうことではないのかね」

 ホワイトラヴァーズが『ストーンメイカー』の名前を出した途端、偽ホワイトラヴァーズ軍団がざわめき出した。

 それもそのはず。『ストーンメイカー』は明らかな紛い者が大人しくやっている分には寛容だが、少しでも一族の名を汚すような行為があると”全面戦争そしょう”も辞さない武闘派集団として有名である。

 そして、やりすぎた『キチモト興行』に対する『ストーンメイカー』の猛攻は、その筋では有名な話であった。

 軍団の動揺を見て、魔女葡萄は小さく溜息をつく。

「おやおや、これだから己の出自に自信のない者は困る。せっかく本家を葬り去る機会を与えてやったというのに、脅されるとこれだ。まあ、期待はしていなかったがね」

 そして、彼は後ろを振り返ると、大声で叫んだ。

「出番だ、先生方!」

 その声に呼応するように暗闇の中から、二人が姿を現す。それを見たマルセー=サンドヴァター教授は驚愕した。 

「ま、まさか君達は――『南国兄弟』!?」

「ほう、顔を知っていただけているとは光栄の至り。そう、我は『南国兄弟』の兄、”佐田さた・アンダーギ”(CV:永井一〇、一人二役)”」

「同じく『南国兄弟』弟分、”ちん子江しこう”(CV:大塚周〇)」

「どうしてお前たちがここいいるんだ!?」

 マルセー=サンドヴァター教授の問いかけに、陳子江が口元をゆがめて答える。

「知れたこと。『北の三人衆』と雌雄を決することが出来るとなれば、未開の地だろうが馳せ参じる。ただ、一人足りないようだがな……」


「そのようなことはありません!」


 荒れ寺の鳥居のほうから女性の声が聞こえたため、全員がそちらを振り向く。すると鳥居の下にはトラピスタとチェルシィの姿があった。

「チェルシィ、安全なところまで下がってくれませんか?」

「分かりました、聖女様」

 チェルシィが寺の本殿脇まで下がったのを見届けてから、彼女は陳子江に向かって言った。

「お名前はかながね伺っておりますわ、陳子江様」


「ほう。これは面白くなってきたな。では、我々も始めるとしようかね。マルセー=サンドヴァター教授」

「もちろんだ、魔女葡萄」

 二人は荒れ寺の境内中央まで移動する。

 そして、魔女葡萄が小川拳の基本姿勢の一つ――”代官の構え”を取ると、教授は右手を前に伸ばし、左手を腰に当てて、姿勢を低く構えた。

 魔女葡萄が微かに笑って言った。

「ふふふ、それが噂に聞く『六課程――第一の型』かね」

 教授は答えない。

 次第に二人の間に、空気が歪むほどの闘気が満ちてゆく。


「君の相手は僕だね」

「そのようだな」

 ホワイトラヴァーズと佐田・アンダーギもまた、闘いの間合いに入っていた。

「見たところ普通の少年のようだが。それでは私の相手は務まらないのではないかね」

 佐田・アンダーギが身体を上下に揺らしながらそう言うと、ホワイトラヴァーズはにやりと笑った。

「僕がどうして『北の三人衆』の一人に数えられているのか、貴方は知らないのですね。それでは、お見せしましょう」

 ホワイトラヴァーズは朗らかに笑うと、両腕を大きく上げてこう言った。

「出でよ、ブラックラヴァーズ!」

「な、ん、だと……」

 佐田・アンダーギの目の前で、ホワイトラヴァーズの背後から黒い影が二重写しのように現れる。


「それではトラピスタ。いずれが”たん山水さんすい”の弟子として最も相応しいのか、ここで決しようではないか」

「望むところですわ」

 陳子江とトラピスタは、放浪の武術家である丹山水の指導を受けた、いわば兄妹弟子の関係にある。

 お互いの手の内は知り尽くしているはずであったから、陳子江はまず間合いを広く取って、相手の出方を探ろうとした。

 その様子を見て、トラピストは微笑む。

「あら、意外に慎重派ですのね」

「ああ、それで長生き出来ているのでな」

「そうですか。でしたら先にこちらからいかせて頂きますわ」

 そう言うとトラピスタは――歌い始めた。

 高いソプラノによる聖なる歌が、場を覆い尽くす。そして、陳子江は苦悶した。

「くっ、この喉の奥のほうに絡まる感覚は――まさか貴様、あの技を身につけたというのかっ!!」

 トラピスタはいったん歌をやめると、にっこり笑って答える。

「その通りですわ。覚悟しなさい、陳子江! 丹山水直伝奥義――『聖菓舌障せいかぜっしょう』!!」


『北の三人衆』と魔女葡萄+『南国兄弟』の死闘が、今始まろうとしていた。


( 終わり )

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おかしな戦争 五 阿井上夫 @Aiueo

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