おかしな戦争 五
阿井上夫
第二話 激戦、敢闘、カ=ントゥ 前編
マルセー=サンドヴァター教授と助手のホワイトラヴァーズは、独眼流萩月の勢力圏を迂回するためにTZBR(ティーザンボーリー)と呼ばれる水路を経由して、深夜零時過ぎに圏境のシ・ラカワを越えた。
ここから先は萩月の手が及ばない地となる。
古来よりシ=ラカワは「旗を持っていると決して乗り越えられない」難所だと言われていたが、彼らは持っていないので関係がなかった。旗なぞ北の地には無縁の長物だ。
月明かりを道しるべとしながら、黒より暗い道を二人は進んでゆく。
すると、彼らの行く先に小さな
「あれはなんでしょうね、教授」
「ふむ、露骨に怪しい雰囲気がしているな」
罠かもしれないと警戒しつつ、それでも教授と助手はその方向に進んだ。そうしないと物語の展開上面白くならないという、大人の事情を充分に察してのことである。
それはともかく――近づいてみると、水路に沿ってナマコ壁の倉庫が続く道の途中に、ぽつりと灯された街灯があった。街灯の柱には町名表示があり、『米菓通』と記されている。
それを読んだ教授は、
「な、ん、だと……それではここはカ=ントゥの地ではないか!」
深夜に、イバル・キー、トッチ・ギー、サイタ・マー、グン・マーという夜行性の猛獣『
(※筆者註:『
ところが、いつのまにかカ=ントゥに誘導されていたらしい。しかも最悪なことに『米菓通』である。
この地には古来より米の仲買人――特に米菓子職人の代理人達が
(※筆者註:伝説の相場師『
二人が立ちすくんでいると、倉庫街に笑い声が響いた。
「むははははは、とうとうこのカ=ントゥの地に足を踏み入れたな、マルセー=サンドヴァター教授!」
「貴様――まさか、小川拳正統伝承者の”
「その通りだよ、お初にお目にかかる、教授。それにしても、名前を覚えていただけたとは実に光栄だな」
「知らぬわけがなかろう。よく比較の対象としてその名が持ち出されるからな」
「ほう、そうかね。しかし、このカ=ントゥの地においては、お前のほうが『ただの亜流』に過ぎぬのだよ」
「おのれ、私を愚弄するつもりかっ!」
「事実を説明したまでのことよ。それにしても、いまだヴァタークリゐムとは片腹痛い」
「馬鹿げたことを! フレッシュクリゐムでは活動限界までが短いではないか。それに水分に弱いという欠点が――」
そこで、魔女葡萄は右手を挙げて、教授を制した。
「戦いにそこまで時間はいらぬのでな。それに、生まれが生まれなので、私はお茶や水でも大丈夫なのだ」
「くっ、気をつけろホワイトラヴァーズ――」
そう言いながら教授が振り向くと、ホワイトラヴァーズの前には彼によく似た、しかし若干ずつ作りの雑な顔の者達が、何人も並んでいた。
「……すみません教授、私には昔から敵が多いのです」
「むう、確かにそうだった。しかし亜流とはいえ、多勢に無勢だな」
二人は敵に警戒しながら、周囲をうかがう。そして、今いるところが荒れ寺の片隅であることを知った。
「ふふふ、ここは
(※筆者註:なんだよ、急に引っ張るんじゃないよ。えっ? なんだって? アンカレッジ便でのトランジットなんて今日びの若い奴は知らないって? そうなの?)
「おほん、ここは
(※筆者註:なーんーだーよー、急に引っ張るんじゃないって言ったで……えっ? なんだって? 意味が分からないって? だから『鐘』というのはジャンとも呼ぶから――えっ、『違う、そうじゃない』って、お前は鈴木雅之かよ! えっ、えっ、ジャン・アレジ知らないの? 『そんなことばっかり言っていると、覆面作家なのに年がばれる』って!? まずいじゃん! で、後藤久美子は今何歳なのよ。「四十五歳(令和元年現在)」って、まじ!?)
( 動揺する筆者を残し、物語は後半へと続く )
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