第8話

 


 なんでこうなったのか、今俺と明日香は追加モデルとなった由那の着替え待ちで待機中。

 何が悲しくていがみ合う二人の女の間に立って写真撮られないかんのだ。 この後の撮影を考えるとゾッとするぜ。


 しばらくして、会長と由那の声が聞こえた。



「おー、可愛いねっ」


「そ、そうですか? ありがとうございます、館長」



 ……… “館長 “ ? ソレは会長だぞ?



「お待たせ、あっつん」



 機嫌を直した由那は、別人のような笑顔で俺の前に立つ。

 撮影用の服装に着替えた由那は、サテンぽい白いシャツに長めの水色のスカートで、買い物かごに長ネギやら野菜を入れて現れた。


 買い物中の主婦を模した ………“殺し屋”、か?

 いや、でもこれは意外と……。


「……いい」


 無い口髭をなぞる俺。


「そ、そう? ……ありがと」


 頬を染めて俯き気味に話す由那。 やっとヒロインらしくなってきたな、よし可愛い。



「会長、私だけでは力不足ということかしら?」


 突然不満そうな声色で口を開いた明日香。


「そうじゃないよ、でも可愛い子は多い方がいいだろう?」


「可愛い? さっきの見たでしょう? この子は格闘家グラップラーで陸奥人殺しの技を使いこなす危険人物よ」



 明日香、お前も中々やるな。



「まぁ、少し力の制御が出来ないおてんばな女の子なだけさ、可愛いもんだよ」



 ―――だから会長お前はダレなんだよおもちゃ屋。



「……館長」


 会長な。


 いつの間にかおっさんに懐いてしまった由那。 お陰で身の危険は去った訳だし、結果オーライってことで。


「あっつんは “強い女” が好きだもんねっ」

「ははっ、そうなんだ俺って」



 ――初耳だ。



「さあさあ、撮影に戻ろう。 その何がいいんだかわからない彼が真ん中ねっ!」


「おっさん」


「両脇に美少女二人ってことで、こりゃ話題のポスターになるぞぉ!」


 張り切りやがって、40%オフにしたろーか。



 それから何度かポーズを変えて写真を撮り、撮影会は終わった。

 由那は謎に「館長、また会いに来ますね」と会長と挨拶を交わし、「大きすぎる力は時に人を不幸にする」と、スナック通いのおっさんが凛々しい顔でほざいていた。



「あっつん、せっかくだから商店街ここで食材買っていこうか。 何が食べたい?」


「篤人くんの食べたいもの作るわ、遠慮しないで言ってね」



「「………」」



 こうなるとは思ったが……。



「まだいたの倉西さん、用事は終わったんだから恋人同士の時間を邪魔しないでくれる?」


「お昼は私が作るから晩は譲るわ、ここは平和的に篤人くんを “シェア” しましょう」



 俺はシェア出来る男、藤井篤人だったのか。 めんどくせぇ。



「そんなシェアするかっ! 食材にしちゃうからね倉西さん!」

「それもいいわね町田さん。 篤人くん、残さず食べてね」

「食えるかぁっ!!」



 終わりの見えないバトルが続きそうな展開だが、またあのおっさんがそこに割って入って来た。



「あー忘れてたっ。 これこれ、はいどうぞ」


 小走りに舞い戻ってきた会長が、明日香に何かを渡す。


「これは?」


 不思議そうな顔で封筒を受け取る明日香。


「約束の温泉チケットだよ?」

「ああ、すっかり忘れてました」


 そういや、そんな問題ものもあったな……。



「……温泉? まさか……」


 由那、冷静に考えろ。 そこまで俺は命知らずじゃねぇ、行く訳ねぇだろ? 明日香だってここで下手な事言うのは得策じゃ―――


「お部屋に露天風呂があるらしいわよ、一緒に入れるわね篤人くん」

「バカですぅッ?!」



 明日香ってこんなバカだった?! 行かねーけど行くにしても由那の前で言ったら行けねぇだろ?!



「こそこそするつもりはないの、私は篤人くんが好き。 この温泉で生まれ変わったみたいに癒してあげるわ」

「なにそれ魅力て――ぎぃっ! ぅ……ぇぇ……」



 下向きに打ち下ろされる肘……こ、これは効く……な……。 バカは俺もだったか……。



「そこまで言われたら仕方ない。 倉西明日香……真剣勝負セメントだ……」


「……や、やめろ明日香……お前とはジャンルが違い過ぎる……」


 明日香は言葉で殺すが、由那は単純に腕力だ。 アイツが白熊とるっつっても俺は “白が赤になる” 想像しか出来ねぇ。


「心配しないで篤人くん、女としての勝負だから」

「女として? なにをするの?」


「それは……篤人くんに決めてもらいましょう」

「俺ぇ?!」


 てめ明日香、ノープランかよ! んなめんどくせぇ事言われてもなんも出てこねーぞ?


「この、温泉チケットを賭けて!……あら?」



 明日香が封筒から勢い良く取り出したチケット。 それは…… “4枚 ” あった。



「会長?」


 俺が訊くと、おっさんはとぼけた顔をして、


「え? だって学校に問い合わせたら、彼女のご家族4人だって……」


 まあ、それは会長のせいじゃねぇな。

 となると、どうなんだ?



「……みんなで……行く?」


 おっさん何照れてんだ?


「そうですね、館長が一緒なら」


 会長な由那。


「私は篤人くんと同じ部屋で」

「はぁ?!」

「家族で取ったからみんな同室だよ?」

「おっさん自然とメンツに入ってんな」

「大人同伴は必要だろう?」



 なんだか不安しかねぇ旅行だが、これ癒されんのか?



「それじゃあ、勝負は温泉かしら?」

「あっつん考えといてね!」

「卓球勝負かな? おじさん上手いよ?」


 行きたくねぇ。


「私が勝ったら篤人くんをシェアしてもらうわ」

「するかっ! 私が勝ったら二度とあっつんに近づかないでねっ!」

「おじさんが勝ったら……」

「おっさんは女の勝負に入ってねぇ!」



 果てしなくめんどくせーヤツらだ……。



 温泉はともかく、この商店街PRポスターは無事完成した。 これで俺の “おもちゃ屋”35%オフ” は成った訳だ。


 しかし、こんな苦労するならやんなきゃよかったぜ……。






 そしてある日、いつものように下校中商店街を歩く俺の目に映ったポスターは、



「……あのおっさん………!」



 俺の右には、主婦姿の由那が買い物かごを持って笑っている。 同じように左には、制服姿の明日香がメンチカツを持って笑っていた。



 二人共、俺に腕を絡ませて。


 真ん中の、




 ――――首から下だけ映った俺に……!!




「やぁ、もうすぐ温泉だね! 楽しみだなぁ」


「奇遇だな会長……聞きたいんだが、このポスターは俺である必要はあるのか?」



 おい、何とか言ってみろやおっさん。



「あははは、えっとねぇ……これがホントの――― “塩対応” ?」


「やかぁしぃわっ!!」



 このおっさん、温泉に沈めたろか……!



 ちなみに、意外とポスターの評判は良く、由那と明日香は商店街でちょっとした有名人だ。



 そして、美少女二人に腕を組まれた “顔なし” は、一部のファンに嫌われているらしい。



 ………俺、映らなくて良かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

別れても好きな彼3 〜商店街の救世主は元カノです〜 なかの豹吏 @jack622

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ