第5話 赤玉の首飾り
一例の儀式が終わった後、秀喜は正式に地獄門前総監となった。
秀喜は没前含め、「疑問」というものを持ってこなかった。しかし死人となってから初めてそれたるものを持ち始めたのであった。
なぜ秀喜が地獄門前総監に選ばれたのか...人と話すこと、決断を下すことどちらも苦手とする彼は最も不適な人材であるように思えた。
赤玉の首飾りが
(なぜ)
秀喜の手に渡る。
秀喜の手は震えていた(自分が)。
首にかける。
赤玉の首飾り。
地獄門前総監。
(選ばれたのか)
「なぜ私にしたのですか。」
秀喜は思い切って聞いてみた。
そんなん罪人の叫び声に聞き飽きたから列の最後のお前に仕事を擦り付けたのさ! 私が貴様の中に何か特別な才能を見出したからとかだと思ったのかぁ?無謀な期待をするな。
そう言われそうで、秀樹は質問をした瞬間、後悔した。しかし実際は違かった。
それは、単純なものであったがたいそう秀喜の心に響いたものだろう。
「ここに来る罪人らは皆、自分以外の人類を軽蔑し、気持ちの悪い不快な奴らばかりだった。しかし君は一人の女を愛し、無差別に他人を傷つけたものの、それ以上にそいつを幸せにした...違うかね?」
そう言って身を翻し、スタスタとそっぽを向いて歩いて行った。
「地獄...」
突然、秀喜の口から声が漏れた。
「じ、地獄......」
凶介が恐ろしいことを思い出したかのようにぴたりと足を止める。
「地獄、閉じませんか?」
一層大きく、秀喜の声が獄中に響く。
「地獄を、閉じる、というと?」
「狂ってると思いませんか?人を、彼の歴書と少しの面接で善悪を判断し、その人の人生すべてをわかり切ったかのように決断を下す。地獄を閉じよう、言葉通りだと思います。」
「私の定めた制度を批判しているのか。」
「いいえ、地獄に来る前の段階、天国、地獄の定めもさほど方法は変わりませんでした。そのことについて言っているのです。」
充分、三秒間の静寂が彼らを包んだ。地獄成立以来、止まなかった罪人の悲鳴や叫びさえ弱まったくらいだった。
「狂っている、と言えば狂っているな。しかし我々に何ができるというのだ。」
「なにか、方法は...」そう聞いて、改めて恐ろしいことを提案したものだ、と実感した。
凶介は、溜息一つつき、地獄は炎魔王の支配下にあり、彼を説得すれば地獄を閉ざすこともできる、と説明した。
✤✤✤
紀元前四千年頃から地球では文明が発達し、ヒト、モノ、土地を争うようになった。そこで罪人に厳しい責め苦を受けさせるために始まったのが地獄であった。よって、最初に罪に復した人間はウバイド文明の指導者であったという。
そして、六千年超が経った今、一度も微動だにしなかった赤門が、二人の男によって閉ざされた。鬼は地中へ返され、獄中の罪人は解放され、再び転生の機会が与えられた。
しかし鬼の餌食は人間である。死後の地獄はなくとも、おなかを空かせた鬼たちが時折地表に現れて悪漢中の悪漢を食い散らしていることであろう。
――――――――――
地獄を読んでいただきありがとうございました!
これが私の処女作なので甘めに見てください。是非評価、感想等お待ちしております。
地獄 カモノハシ @kamonohashi124
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