第4話 定め

 凶介ははしたないものを見るような眼で秀喜を見つめた。

 

 「なぜ自爆テロを起こした。」


 秀喜は少し考えた後、


 「愛と革命のため...ですかね。」


 とだけ答えた。


 「はい?」


 「愛と革命のために私は死にました。」


 中二病か?と突っ込みたくなったが詳しく聞こう、とだけ偉そうに答えた。


 「私は愛してた女がいました...私には愛している女がいます。彼女は私にとって、地球における太陽のような存在でした。しかし、世界は彼女を苦しませ、ロボットの様に働き続ける彼女に魂が粉々になるまで仕事を与えました。彼女は当時不動産関係の会社に勤めていたのですが、とても内気であったため...。」


 ロボットという不慣れな言葉に首を傾げたものの、凶介はゆっくり頷いた。


 「あの夜は忘れません。明るい満月の肌寒い夜でした。真夜中になりましても妻が帰ってこないもので、おや、と思い私は私たちの寝室を覗いたのです。ああ、今こうやって、そのことを話すだけでその惨しさを思い出します。」

 

 凶介は再度頷いた。


 「部屋のドアを開けた私は悲惨そのものを目にしたような気がします。天井から太い糸が吊り下がりその先端に妻の首がかけられ、宙に浮いていたのです。使用後のブランコのようにリズムよく揺れていました。足元には椅子が横たわり、妻が上に立った後がございました。彼女は自ら命を奪ったのです。」


 「それはいつのことか。」


 「つい三日前です。」


 凶介は先に促すためもう一度コクン、と頷いた。


 「そして私はその後、妻を苦しめた世界に仕返しをいたそうと考えました。私は闇サイトから爆弾を仕入れ、妻の命を奪った世界から妻の命に値する分だけの命を奪いました。」


 赤門にはゴオゴオと様々な罪人の苦しむ音が鳴り響いていた。


 それ以降凶介は秀喜に質問はしなかった。


 悪の門からは老若男女、悲鳴や叫び、嘆く声が絶え間なく波のように押し寄せる。

 

 秀喜の門は定まったようである。


 狂悪、最悪の門からは一層苦しみを増した、生きた人間が耳にしただけでその後何年間も同じような悪夢を見させるだけの惨しさが地獄中を震わせる。


 秀喜の門が定まった。最悪の門であった。


 しかし、秀喜はびくとも動揺せず、火を見るより明らかだったかのようにすたすたと最悪の門へ歩き始めた。


 「最悪の門だけはやめてください!」 


 「せめて狂悪...最悪の門だけは...」


 皆、最悪の門が定められた者は凶介に縋りつき、嘆き、頼むのであった。


 「おい、秀喜」


 秀喜はぴたりと足を止め、振り返った。


 ここまで大きな声を発したのは生れてはじめてかもしれない。


 次の凶介の行動は、もし見物人がいたのなら、彼をあっ、と驚かせていたことであろう。


 凶介は首に垂れ下がる赤玉の首飾りを外し、秀喜に差し出した。


 「地獄門前総督にならないか。」


 それに応えるかのように近くでマグマが爆発した。


 秀喜はよくわからないまま、コクリ、と頷いた。


 彼は地獄なんちゃら総督という中二が名前を付けたような地位を得ようと最悪の門で以降、ありとあらゆる苦しみを与えられたとしてもシツ子が天国にいて自分が地獄にいる今、どうでもよかったのである。


 秀喜は再度ゆっくり頷いた。



―――――――――—


四話完読ありがとうございます!

次回が最終回です。是非一言でいいので軽くコメントを!本当に、何でもいいので感想が聞きたいです。

次回お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る