第3話 赤門にて
生まれてきた者には必ず死が訪れる。生と死とは紙一重である。何事にも終わりが来るものだ。一時は何十万人と死前罪を犯した人らが並んでいたものの、どういったことか、一万、一千、百と減っていきとうとう残り一人となってしまった。
前に並んでいた女は濃い赤色の血に染まった服を身にまとい、長さが30㎝の包丁を持ち、列に並んでいた。悪人の武器を、地獄では回収する必要などない。世で何万人も人を殺せるリトルボーイだって獄では遊具である。そんな地獄で女は震えていた。
彼女は人間を解剖してみたいという願望のもと友人の留守に邪魔し、例の包丁で友人の首を切り落とした。胸から腹部にかけて刃を入れて行っていた最中、友人の父親が帰宅し、彼の腰に巻かれた銃に気づかないまま彼を殺そうとしたところそのまま一発やられたそうだ。
胸に空いた直径3㎝の穴は例のようにできたというわけだ。しかしこのような猛獣極まりない女でもそれぞれの門から悪夢のように響く叫びには四六時中恐怖のあまり身を震わせていた。待ち時間ずっと、どうにかして天国へ行く方法はないものかと考えを巡らせていたものである。
無論、嘘は已然として凶介にばれ、赤門を過ぎた後、狂悪の門をくぐらせられた。
やがて、秀喜の定めが下る。
凶介が例の女が凶悪の門をくぐったのを見届けた後、振り返り、すらっとした細い男と向き合った。彼が秀喜である。
凶悪の門からは、例の女でしょうか、甲高い悲鳴がアイスのように鳴り響き獄全体を震わせた。
凶介にとってはかのような叫びは日常ではあったが先ほどのものは類を見ない大きさと痛ましさを帯びていた。
それに対し秀喜は何も聞こえなかったように冷然と一切の動揺を表に出さず、立ちすくみ続けていた。これからその苦しみに自分が放り込まれるというのに。
凶介にとってもかのような、門の前で澄んだ態度をとり続けたものは初めてであった。
「貴様は怖くないのか。」
思わず聞いてしまった。
「なぜ怖いのですか。」
何日ぶりだろう、声を出したのは。
「今の悲鳴が貴様には聞こえなかったか。何の声か、想像できないのか。世で生きる最も恐ろしい獣と、比にならぬ長さの牙を持つ猛獣が貴様の足を食いちぎり、貴様の千倍もの大きさの赤鬼が貴様を一千度の湯でぐつぐつゆっくり苦しませる。まぁ、それが易しい方だろう。最悪の門を通ったら...」
「もっと恐ろしいもの...私は知ってます。」
凶介はあっけらかんとした眼で秀喜を見つめた。四百年もの間、死人は死んでも(もう死んでるが)狂悪、最悪の門は通りたくない、と凶介との面接の際には神と話すかのように遠慮するのであった。よって、自分が話しているとき妨げられたことなど無論ない。
凶介は秀喜から没前歴書を奪い取った。結論として彼は本日三度目に驚かされることになる。
そこには大きく、
「東京都内で自爆テロ」
とだけ記されていた。どおりで生きている人のように無害で清潔だったのだ。というのも、死ぬ際、身体の三分の一以上がバラバラになっていたものについては地獄では再生された体で訪れるようになった。かつてはそのまま地獄に放り込めばよかったが三獄制導入に伴い定められたものであった。
ゴォーっと日の舞い上がる音が悪の門の方からした。地がわずかに揺れたことは言うまでもない。無論秀喜は冷然と凶介を、河原物でも見るかのような目で見続けるままであった。
「自爆テロか」
凶介は、はしたないものを見るような眼で秀喜を見つめた。
「なぜ自爆テロを起こした。」
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第三話完読ありがとうございます。
この物語を気に入られた方は是非コメントを残していってください!よろしくお願いします。
次回は秀喜とシツ子の悲しい愛の結末についてです。
ぜひお楽しみに!
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