こんな彼氏とは付きあいたくない!

仲仁へび(旧:離久)

01



 花園梨花は、中学一年生。

 四月に中学校に入学して、新しい学校での生活を満喫していた最中だった。


 その学校では、気になる幼なじみでの少年、茅ヶ崎とーわと一緒の学校に通う事ができて、嬉しかった。

 けれど、そのとーわが最近梨花を避けているのが気になった。


 我慢ならなくなった梨花は、どういう事か問い詰ようと、学校の屋上にとーわを呼び出した。

 そしたら、顔を真っ赤にしたとーわから「お前の事が好きすぎてまともに顔を見られなくなったんだ」と、言われ「梨花! 好きだ! いや、愛してる! 俺とつきあってくれ!」こんな風に告白されてしまった。


「ふぇっ!?」


 呆然としている間にまくしたてられる。


「ずっと前からお前と付き合いたいと思ってたんだ」


 とか。


「だから、これからはなるべく一緒にいたい」


 とか。


「でも、人前で付き合うのは恥ずかしいから、誰も見てないところでイチャイチャしような」


 なんて、ヘタレ発言とか。


「あと、手を繋いだり、話したりするのも駄目な」


 なんて、とんでも発言も。


 とーわはあちこちに視線をむける。

 周辺の建物から、または屋上へに入り口から、設置されてる監視カメラから、人の視線が注がれていないかチェックしてそうだった。


 そわそわしながら、誰かに見られていないか確認しているその姿に、告白された嬉しさが全て吹っ飛んでいった。


 梨花は、拳を握りしめて、相手の腹にグーパンチした。


「とーわの、とーわのばかぁぁぁぁっ!」

「ぐはっ!」


 梨花は大股でその場から歩き去った。






 それから一応二人は付き合う事になったのだが。


「あっ、人が来た」


 本当に人前ではいちゃいちゃしなかった。


「とーわは何で、そんなに人目を気にするの?」

「だって、面白半分にはやしたてれられたら嫌だろ」

「それは分かるけど」

「それにやっぱり恥ずかしいし」

「そこは何とかしてよ」


 とーわは、かなりのへたれ男子だった。


「あっ、また人が。梨花、離れて!」

「むーっ!」

「怒るなよ~」


 で、人が離れた途端べたべたしてくる。


「なあ、梨花、キスしていい?」

「やだ」

「何でだよ~」

「私の方こそ、何でだよ~だよ! さっきのあれがあってよくできるね、とーわ!」


 バチーン


「いってー!」


 あんなに好きだったのに、恋愛ではとたんにへたれてくるとーわの態度に、梨花の恋心は氷点下へと失墜だった。







 そして極めつけには。


 下校中に一緒に帰っていると、とーわがぱっと距離をあけた。


「はっ、向こうから人が歩いてくる!」

「あれって、とーわのお母さんだよね。いつかわ報告しなくちゃいけないんだから、別に隠さなくてもいいんじゃないの?」

「いや、だめだ。出来る限りギリギリまで秘密にしておこう。母さん噂好きだし、話したら近所で噂されるだろうし」

「え~」


 それは、買い物帰りのとーわの母だった。

 幼い頃からとーわと付き合いがあるので、梨花は家族の顏もしっかりと覚えていた。


 そんなとーわの母がこっちに気づいて声をかけてくる。


「あわ~、梨花ちゃん。こんにちわ。とーわと一緒に下校? 相変わらず仲良いわね~」

「ばっ、そんなんじゃねーし。梨花はただの幼なじみだっての」

「またまた、照れちゃって~。小さい頃は梨花ちゃんをお嫁さんにするんだって言ってたのに~」

「そんなの子供の頃の話だろ! そんな恥ずかしい話よしてくれよ」

「まったくもう、意地っ張りなんだから。夕飯の支度があるから、じゃあ先に帰るわね。梨花ちゃん、うちの息子をよろしくね~。ごゆっくり」


 とーわのお母さんがニヤニヤ笑いで去っていった後、トーワが口をこぼす。


「ったく、うちの母さん。いつもああなんだよな。困っちゃうよな」


 けど、私はとーわとは別の部分が気になっていた。

 とーわはさきほど何てこたえたんだろう。

 確か。

 本人を前にして、結構ひどい事言われた気がする。


「とーわ」

「ん?」

「へ~、そんなんじゃないんだ。恥ずかしい話なんだ。私と付き合ってる事って」

「ばっ、ちがっ!」

「違わなくないでしょ。もうっ、とーわのばかっ、知らない、別れてやるんだからっ!」

「まっ、待てよ!」


 私は走り去りながら、とーわに罵詈雑言をなげつけた。


「そんなんじゃ、一生彼女できないんだからねっ! つきあってあげないんだからねっ!」


 一組のカップルが破局するかいなかの局面だというのに、そんなときでも「ばかっ! そんな大声で言ったら他の人にきこえるだろ!」とーわはとーわだった。


 こんな彼氏とはつきあいたくない。


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