第438話 エックスバーアール管理図を使おう 3

 俺はオッティとグレイスをステラの屋敷に招いて報告をしている。

 そこにはオーリスも同席していた。

 さらに、シルビアにも来てもらっている。


「国が掴んだ情報によると、贋金の出どころはどうもヴィヴィオストロ公爵領らしい」


 俺が説明をはじめると、グレイスが口を挟む。


「それって国からの情報よね」


「そうだけど、何か?」


「国が黒幕に目を付けているのなら、私たちの出番なんてないじゃない」


 と顔のまえで手をヒラヒラとさせる。

 確かに贋金作りという重罪の犯人の目星がついたなら、俺たちの出番がないと思うのも当然だ。

 しかし、今回はそうではない。

 それを伝えるために説明を続ける。


「実はヴィヴィオビストロ公爵領に送り込んだ密偵が悉く連絡を絶ってるそうなんだ。だから、こちらにお鉢が回ってきたっていうわけ。義父が凄腕の婿がいるってアピールしたらしいんだ」


 そう言うと、小箱を収納してある異空間から取り出して、テーブルの上に置いた。


「それは?」


 オッティが興味深げに小箱を眺める。


「伝言の小箱っていうマジックアイテムだよ。伝言を録音すると、指定した相手にしか再生ができないっていう便利アイテムだ。再生してみようか」


 俺は小箱に魔力を流す。

 すると、伝言が再生された。


「おはよう、アルト君。今回のターゲットはヴィヴィオビストロ公爵領だ。その公爵領は人口3500人。王国最小の公爵領である。我々はそこで行われているという贋金作りの証拠を掴むことができずにいる。そこで、君の使命だが、公爵領に行って贋金作りの証拠をつかんできてほしい。例によって、君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないから、そのつもりで。なお、この小箱は自動的に消滅する。成功を祈る」


 そこで小箱に火が着いて激しく燃え上がる。


「あっちぃ」


 魔力を流すときに手をかざして、そのままにしていたので火傷してしまった。


「カリ城かと思ったらスパイファミリー!?」


 と驚くグレイス。


「いや、大作戦だろ」


 というオッティの冷静なツッコミをききながら、俺は火傷した箇所を魔法で治癒する。

 治癒も終わり、本題に戻る。


「そんなわけで、これからヴィヴィオビストロ公爵領に行って証拠を掴んでこようと思うんだけど、名前で呼び会うとまずいから、コードネームを決めて、これからはそれで呼び会おう」


「わかったわ。それであたしも呼ばれたのね」


 と、理解の早いシルビアさん。

 荒事専門ですからね。


「そうだよ。よろしくね。それで、俺のコードネームはオイルパンにするから、今後はそう呼んでほしい」


「わかったわ。オイ、ルパン」


「わかったぞ。オイ。ルパン」


「グレイスもオッティもオイの後ろに句読点はいらないから。というか、それがあると別物だろう」


 本当はオルタネーターにしたかったけど、直近で(2023年1月)にとあるメーカーのリコールがかかったので、縁起が悪いから止めました。

 そして、次にオッティのコードネームを発表する。


「オッティのコードネームは3679」


「3679?」


 全員から疑問の声が上がる。

 それも当然か。


「詳しくは東証にきいてくれ」


 とこたえたが、ここに東証はない。

 なので、みんなわからないだろうけど、その四桁の証券コードを割り当てられた会社名を見れば納得してくれるだろうか。


「同じ理由でオーリスは5009」


「イントネーションは『ご~ぜろぜろきゅう』ですわね」


「モノマネ選手権ならね」


 読者の皆様におかれましては、脳内で変換して下さい。


「あたしは?」


 とシルビアが訊いてきたので、シルビアのコードネームを教える。


「拷問」


「なんであたしだけそんなコードネームなのよ」


「相手を拷問して情報を吐かせるのが得意っていう設定なので…………」


「納得いかないわ」


「またつまらぬものを切ってしまったって言いながら、相手の指を落としてもいいから」


「特典の気がしないんだけど」


 と不満を口にするも、他にいい案もないのでそれに決定した。

 ここで残るはグレイス。


「それで、私がここに呼ばれた理由がわからないんだけど。私は別にヴィヴィオビストロ公爵領に行くわけじゃないでしょう。聖女でもないんだし」


 なんで聖女という単語が出てくるのかはわからないが、グレイスがこの件でやれることは無いと考えるのは当然か。

 貴族の力を借りたければ義父の力を借りればいいわけだし。


「グレイスにはサクラの面倒をお願いしたいんだ。もし万が一俺とオーリスに何かが有ったら、サクラが成人するまでの養育をお願いしたい。まだジョブがわかっていないけど、義父の唯一の相続人になるわけだからね」


 グレイスを呼んだ理由を説明した。

 唯一の相続人と言ったが、実際には貴族の後継ぎがいない場合は兄弟や親戚が相続する事になる。

 それもいない場合は国の直轄となるのだけど、サクラがいることでそれが出来ない連中に後見人だのという名目で乗り込んでこられたくはない。

 領地なんてわたしてもいいのだけど、傀儡とされるのは親としては避けたい。

 グレイスなら安心かというとなんとも言えないが、今までの付き合いから、訳のわからない親戚よりはいいだろうという判断だ。


「ああ、そういう事ならわかったわ。子育ての経験はないけど」


 無事引き受けてもらえた。

 これで後顧の憂いはない。


「それで、どうやって贋金作りの証拠を掴むつもり?」


 シルビアに訊かれたので、今後の計画を話す。


「ヴィヴィオビストロ伯爵、これは火事で亡くなったヴィヴィオビストロ公爵の親戚なんだけど、その伯爵が公爵の一人娘と結婚をすることになったんだ。それでその結婚式にグレイスも招待されている。だから、俺達はグレイスの従者として公爵領に入り、そこで証拠を掴もうと思うんだ。当然結婚式には国王陛下もご臨席される。そこで証拠を突き付けられたら最高なんだけどな」


 そんな計画にオッティから反論が来た。


「例え俺達が証拠を見つけたとしても、白を切られたらどうするんだ。貴族と平民じゃどっちを信用するのか、火を見るよりも明らかだろう」


 それには俺も頷くしかない。


「それはわかっている」


「わかっているなら何か対策があるんだろうな」


「ああ。ラパンの弟子として犯行予告を出して、捜査官をヴィヴィオビストロ公爵領におびき出すつもりだ。俺達が見つけた証拠を捜査官にも見せれば、相手はもう言い逃れは出来ないはずだ」


 そうこたえると、今度はグレイスから反論が来た。


「捜査官が相手に阿るかのうせいだってあるじゃない」


 それにはオーリスがこたえた。


「ラパン専属の捜査官はティーガタとおっしゃいますが、彼は真面目が服を着て歩いているような人物ですわ。たとえ貴族の犯罪だとしても、相手に阿るようなことはいたしませんわ」


 ティーガタとは中年の男性捜査官であり、今はラパンの事件を専属で追っている。

 オーリスからしてみてればよく知った相手であり、その性格まで把握しているのである。

 だからこそ、こんかいの方法を思いついたというのもある。

 ただ、相手がラパンの弟子という自称の犯行予告にどこまで食いついてくれるのかは疑問だけど。

 ラパンとして犯行予告を出せばよいのだが、今回の件はオーリスはあくまでもコードネーム5009として、補助的な仕事をお願いするつもりなので、ラパンとしての犯行予告は見送った。

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冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~ 犬野純 @kazamihatuho

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