その4 ろくでもない結末は案外悪くない
幸いなことに親友は無傷だった。
国中がぬいぐるみという異常事態なのに、幸せスマイルで過ごしすぎたために、怒りの「メルヘン☆キラキラビーム」を受け、魚のぬいぐるみに姿を変えていたらしい。嬉しいような、頭が痛いような現実だった。
荒廃した国土は魔法使いによって二時間ほどで元通りにされた。
尚、勝手に動く道路や道案内をする看板が設置されていたので、それを撤去させるのには三時間かかった、主に説得の面で。悪い奴ではないが、あの魔法使いは善意の押し売りが激しすぎる。
「まあ、手段はあれでも助かったのは事実だからな、報酬だ」
「おっ、それは嬉しいね」
白亜の森にて、色々文句はあるが一応お礼はするべきだということで、俺が再度派遣された。尚、親友ははしゃぎすぎの件で三日間の謹慎をくらったため、今回も俺一人の訪問である。
「王室お抱えの針子が作った最高級の枕カバーだ」
「うん、これだよ、この手作り感のある生地は現文明ならではだよ!」
「お前は一度うちの職人に殴られていいと思う」
喜び方は子供が欲しいものを手に入れたような無邪気さがあるのだが、如何せん発言がひどい。悪意がない分、たちが悪い。
「で、恋バナのほうだが」
「うんうん!」
「うちの国は今カップル成立や結婚ラッシュでな、それぞれに経験談を書いてもらった」
「おお、それはおめでたいね! 生の恋バナも良いけど、言葉として形になった恋バナも最高だ!」
満面の笑顔を浮かべる魔法使いに俺は分厚い本を手渡した。国中に協力してもらったそれは、丁寧な文がびっしりと綴られ、辞書のような厚さになっている。
ところで、人間が恋や愛を自覚するタイミングはいつだろうか。それこそ、人それぞれだと思うが、形として生命の危機がきっかけになるケースは割かしある。
まあ、つまりそういう事である。
「ん、ぬいぐるみになって? 突然焼かれて死ぬかと思って? 世の中理不尽なことが多いから、好きな人に告白ぐらいしようと思った?」
嬉々として頁をめくった魔法使いの顔色は悪い。助けを求めるようにこちらを見てくるが、俺は無言で先を促した。
「死ぬほど恐ろしい目に遭い、最後に一緒にいたいのはあの人だと思って結婚しました? どんな姿になっても、地獄のような目に遭っても側にいてくれた姿に恋に落ちました?」
魔法使いはそっと本を閉じた。混乱した目に対し、俺は頷いた。その言葉たちは現実である。国中に最速でお触れを出して集めた甲斐があった、ここぞとばかりに該当者は恋バナに包んだ恨み言を書きまくってくれたのである。
「え、みんな呪いに困っていたんじゃないの!?」
「それはそうだけどな、方法に問題がありすぎた」
「え、損害ないのに!? 皆生きているよ?」
魔法使いが絶叫し、頭を抱えた。目を引んむく勢いで言っているからか、お綺麗な顔が大層残念な顔になっていた。
「まあ、広い意味ではお礼は言っているから」
「広い意味って、何!? いつも思うけど、良い事しかしていないよ!?」
「……もうちょっと、現世界の人間の心を学ぶべきだな」
「やめて、その諦めの目! ロッキーの浮気相手と間違えられてモニカに刺された時の、浮気相手だったサルトナの目を思い出すから!」
「お前の周囲の人間関係爛れすぎていないか?」
魔法使いは顔を両手で覆うと首を激しく横に振った。その姿は滑稽で、偉大な(?)魔法使いには――とても見えない。
「違うもん、周りがちょっと変な人が多かっただけだもん……」
「知っているか、類は友を呼ぶということわざが現世界にはあってな」
「うわ、何その笑顔。一国の王子がその笑顔って、怖っ」
「指先1つで国土を灰にしたやつに言われたくない」
「ひゅ、ひゅー」
魔法使いは流石にばつが悪いのか、下手くそな口笛を吹いて誤魔化しだした。その子供のような姿に思わず苦笑してしまう。
「まあ、あれだ。文句はあるけど……ありがとうな」
「それはどういたしましてだ! 存分に褒めてくれ!」
魔法使いの笑顔は本当に美しくて、太陽のようなまばゆさだった。この笑顔になんだかんだ歴代に相対してきたものは丸め込まれたのだろう、そう思った。これだから、旧世界の化石魔法使いは、たちが悪いのである。
この世界には旧世界の遺物が残っている。色々あれな魔法使いとか、わけわからん加護とか、大体ろくでもないものが。
それでもまあ、この世界も、きっと旧世界も案外悪くない世界なのである。
古の呪い(メルヘン)はろくでもない 石崎 @1192296
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