最終話 まだ、押し倒されてませから!

 とても穏やかな食事の時間を過ごし、タクシーで帰って来るとまだシャノはぐっすりと寝てた。

「おーい、シャノぉ。恋のキューピットぉ。起きろぉ、ごはんだぞぉ」

 完全に酔っぱらって子供に絡むオヤヂ化してる……。

「酔ってるの?」

 ちょっとだけな。

 リュウは、そう言って目を覚ましたシャノの小さなトイレを掃除し始めた。

 つい先日まで、助けてあげないと排泄もできなかったのに、小さな子ネコ用トイレを用意すると教えてもないのに自分出来るようになった。

 お世話の手間が減って楽になったのに、ちょっと寂しいような気持ち。

「お風呂に入るね」

 この2週間で自然とできた流れ。

 夕飯の後、先に私がお風呂に入って、その後リュウがシャワーを浴びる。

 で、一緒に少しお酒を飲んで……

 ちょっと、イチャイチャして……。

 とは言え……

 まだ、押し倒されてませから!


 お風呂から出ると、寝ちゃったかもと思ったリュウは起きてていそいそとお風呂へと向かった。

 しっぽがシャノの相手をしてやってる姿は、リュウの言うように年の離れた姉妹のようにも見えるなぁ。

 洗面所で髪を乾かしていると、浴室のドアの向こうでリュウがシャワーを浴びている様子が分かる。

 鏡に映る指に、リュウからもらった指輪。

 なんか、凄く安心する。

 このままのんびり脱衣所に居たら全裸のリュウが登場しちゃうので、急いで髪を軽く乾かして、夕方リュウが猫達と転寝していたソファでボディクリームを塗りこむ。


 男子ってお風呂の時間短すぎない??

 あっと言う間に出てきたリュウが、ぽすっと隣に座った。

「ん、何か良いニオイ……」

 鼻をくんくんさせてリュウの顔が近付いてくる。

 ふわぁぁぁ、どうしよう……。

 もちろん、そう言う事態に備えて身体の隅々までしっかり洗ったし。

 何なら、ボディクリームもちょっとお高いのにしたし……。

 どんどん近付いてくるリュウの顔。

 そして

 リュウに抱きしめられた。

 何だか胸がいっぱいになってきたんだけど。

「ベッドに行こう……」

 きゃー!

 自分から言っちゃった!

「うん」

 リュウに軽々とお姫様抱っこされ、ベッドへと移動。

 なにこれ!

 なんの映画!

 てか、リュウ抜糸が済んだとはいえ、骨大丈夫なの!?

「ノリくらい運べないと、仕事になんないから」

 そう言って、ものすごぉく優しくベッドに下ろされた。

 ダメだ、乙女モード全開!

 四十路にして乙女!

「ごめんノリ、オレ我慢できない……」

「私も……」

 我慢できない、そう言ったのにリュウは凄く優しく私に触れるの。

 何度も何度もキスをして。

 そして、そして、

 優しく、優しく…。

 おっと、ここまで。

 ここからは大人の時間!


 ☆ ☆ ☆


「じゃぁ、仕事の合間に何度か様子見に帰って来るから」

 朝、リュウは私より一足早く仕事に向かった。

 自営業だから時間は割と自由に使えるみたいだけど、この2週間休んだ穴埋めは大変そう。

「うん、よろしくね。行ってらっしゃい!」

 誰かに行ってらっしゃいなんて言ったの久しぶり。

「行ってきます。ノリもいってらっしゃい!」

 にっと笑うリュウの顔は、今も昔も私に元気をくれる。

 エアコンが壊れたあの夜が嘘みたい。

 よし、仕事もプライベートも充実させてやるんだから。

 んー!っと伸びをしたら、腰がつった……。

 寄る年波には勝てないだと!?

 勝ってや……いや、勝てないけどさ。

 リュウとしっぽとシャノで楽しく生きるんだから!

 四十路女の決意なんだから!


 私とリュウの再会話はこれで終わり。

 聞いてくれてありがとう!

 またね!



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忘れてた恋 みや(弥也) @miyathubo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ