第25話

「じゃ、名前は明日までに考えておくよ。」

俺はその場では何も思い付かず、明日に持ち越した。


「では、私は事務所に戻ります。

君達はどうするかね?」

社長は席を立つと伝票を持ってレジに向かった。

矢野と玲香は顔を見合わせ、席を立った。


「俺達もとりあえず行くわ。

何か、決めなきゃいけない事が山盛りだし。」

きっと矢野は会社を辞めるか玲香と相談するのだろう。

俺と梨園はもう少し時間を潰す事にした。


「じゃな。」

二人を見送るとインカム越しに下らない話をした。

梨園をホテルまで送るとして、その前に何か食べさせないと。

梨園はコンビニすら躊躇するからな。


「行くか。」

オレは梨園に声をかけて席を立った。

外は暗く、街灯と店の明かりが梨園にスポットライトを当てている様に見えた。


手を繋いで歩き始めると前を歩く人だかりがざわざわと騒ぎながら道を開けた。


前からは青白い顔でブツブツと呟きながら手に刃物を持った男が歩いてくる。

梨園を守る様にその男を見ると木ノ下だった。


「てめぇのせいだ。

ぶっ殺してやる。」

木ノ下は俺に向かって刃物を振り上げた。


周りからは悲鳴が車の喧騒を掻き消し、昔見た映画の十戒の海が割れる様に人はその場から離れた。


俺は梨園を守る様に木ノ下に背を向けた。

背中に痛みよりも熱い物を感じた。

それは何度も繰り返された。

俺は痛みに耐え、ひたすら梨園を守った。

目の前が真っ白になり、何も感じなくなって梨園の悲痛な叫び声しか聴こえなくなると俺は祈った。

せめて、梨園だけは。


俺はもう駄目だろう、せめて梨園だけは警察が間に合うなり木ノ下が俺を殺した事で満足するなりで無事でいてくれ。


俺の身体が言う事を聞かず、崩れる様に梨園から離れていく。

遠くでパトカーのサイレンが聞こえる。

大丈夫だ。

梨園は守りきれた。


俺の意識はそこで切れた。

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オタクな俺にフラグが立った。ジャンル恋愛だと思ったら異世界転移でした。 koh @koh_writer

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