第24話

「では、これで失礼します。

明日の食事会にはコチラからアドバイス出来る有識者を連れて行きますので、宜しくお願い致します。」

萩原は席を立ちリクと握手をして部屋から出た。


「高城は明日から有休が承認されているが、良いのか?」

課長は急な話の展開に有休の事を言い出せないでいた。


「仕方ないですよ。

それに、有休中にやろうと思っていた事を仕事として出来るんだから文句は無いです。」

リクは公私混同する気バリバリだった。


「それより、矢野はどうするんだ?

次期社長なんだろ?」

「初めて聞いたよ。

しかし、聞いてしまうと中途半端には出来ないな。

課長、俺はどうすれば良いですかね?」


「何故私に聞く?

自分の人生だろ、自分で決めなさい。

ただし、君の場合は出向にはならない。

社に残るなら、仕事の一つとして関わる事になる。」


「仕事の一つかぁ。

中途半端になるのは目に見えてるな。

課長、俺…

会社辞めます。」


「そうか、矢野ならそう決めると思ったよ。

色々な手続きとか引き継ぎがあるから、一ヶ月位は在籍してもらわなきゃ困るな。」

課長は二人も一辺に居なくなると困るなと言いながらも、顔は二人を送り出すのに相応しい微笑みだった。



「では場所を変えましょうか。

場所は矢野と玲香に任せるよ。

社長もそれで良いですか?」

「構わないが、インカムを君が着けて梨園の相手をしてくれるか?

話を聞いたと思うが…

事務所での木ノ下の一件で梨園が心を閉ざしてしまってね。

君を信頼しているみたいで、君の言う事は素直に聞くからね。」

社長はリクにインカムを渡した。


リクがインカムを着けると梨園が喋った。


「リク、私の為にありがとう。

私、もう少し頑張ってみる。」

「おう、よろしくな。」

リクは梨園に握手を求め、右手を出した。

梨園は笑顔で握手をした。


場所は玲香が決めた。

クラシカルな喫茶店でアンティーク調のソファーだ。


「では、社長の疑問に答えます。

何から話しますか?」

俺は順を追って話しても良かったのだが、長くなるし面倒臭いので要点だけ話す事にした。


「一番気になっているのは木ノ下への対応です。

初対面ですよね?

まるで木ノ下を知っているかの様な扱いでしたが?」

社長は木ノ下の性格を知っている人間からの苦言とほぼ同じだった事が不思議らしい。


「それに関しては玲香から多少聞きましたから。

ただ、印象は事実を曲げる事が良くあるので、自分でカマをかけました。

ものの見事にハマってビックリでした。」

俺は玲香から聞いた話で木ノ下の人物像を予想していた事を社長に話した。


「そういう事でしたか。

梨園が昨日の今日で事務所に姿を現したと言う事は、陸斗さんが昨日の内にフォローしてくれたと言う事ですね。」

「えぇ、偶々矢野と玲香と一緒に食事をしていましたから。

そうそう、玲香は前から顔だけは知っていましたが話す様になったのは昨日の食事で矢野に紹介されてからですね。」


「玲香とは昨日初めて…ですか?

その割には親しそうな感じですが…。」

「それは俺のキャラですかね。

馴れ馴れしくてすいません。」


「いえ、問題無いです。

父親としてはちょっと複雑ですが…。

私より矢野君の方が気にするのでは?」

「いや、俺はリクの性格を熟知してますから(笑)

それに、リクの事を信頼してるので玲香を最初に紹介したのです。」

矢野は今回の件に自分も一枚噛んでる事を打ち明けた。


「理解しました。

では、次ですが横浜のスタジオで撮影は本当にするのですか?

撮影内容を知りたいですね。」

「撮影はしますよ。

先ずは宣材写真ですね、ゲームのヘビーユーザー位にしか顔が知られてないですからね。

あと、梨園次第ですが芸名にしましょう。」


「なんで、芸名にするの?

私が中国人だから?」

「違うよ。

梨園が何処の国かは関係ないよ。

梨園が梨園として活動するより、もう一人の人格を作ったほうが良いと思う。

これから梨園は自分の気持ちを殺さなきゃいけない事が出てくると思う。

その時、私は演じてるんだと割り切れば気持ちが楽になると思うんだ。

まっ、俺は梨園に好き勝手させるつもりだから保険だな。」


「そういう事なのね。

分かった、名前は何にする?」

「それは社長が決めるべきだ。

梨園は谷プロのタレントだからな。」

俺は所属のプロダクションが決めるべきだと社長を見た。


「いや、本人が気に入らないと意味を持たないので梨園に決めさせます。」


「リクが決めてよ、リクが思う女の子になるから。」

梨園は自分の言った言葉に恥ずかしくなって、ちょっと頬を赤くした。

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