第42話


 しばらくしてマリアスが泣きやんでから再び話が再開される。


「今度は俺のほうから質問させてもらうが、あいつらが何者で何を目的に動いているかはわかったのか?」

 リーダーたちの処遇に関してはマリアスたちに一任したため、その後どうなったのか、情報を聞き出せたのかをユウマが確認する。


「いえ……それが、まだなんです」

「うーむ、あやつら揃いも揃って口が堅くてのう。仕方ないので、それを専門にするやつらに託そうかと考えておる」

 申し訳なさそうに首を振るマリアスの言葉を引き継いだタイグルがそう言った。

 つまりは、尋問・拷問を得意とする人物ということを指している。


「なるほど、まあお手柔らかに頼む。特に俺が連行してきたやつは、最終的には多少協力的だったから、少し優遇してやってくれ……そうだ、これも何かの役にたつかもしれないから渡しておくよ。”展開、資料”」

 ユウマが取り出して机の上に広げたのは洞窟で手に入れたゴーレムに関する資料だった。


「こ、これは……すごい!」

 マリアスはそれを手に取り、確認して驚いている。

 一枚、二枚、三枚と資料を確認していくうえで、彼女は興奮していく。


「すごい! すごいですよ! これはユウマさんたちが倒したゴーレムの研究資料ですよ! これがあればゴーレム研究がかなり進みます! 運搬、護衛、高いところでの作業、細かい指示などかなりの命令を細かく出せます!」

「お、おう、喜んでくれてよかった。というか、まさかそこまで喜んでくれるとは思わなかったよ。うん、回収しておいてよかった」

 予想以上の反応にユウマは戸惑ってしまうが、それでも笑顔でそれらを見ているマリアスを見て資料の回収を選んだことに満足していた。


「それで、呪いの回復薬は手に入りそうなのか?」

「うむ、それに関してはお主が釘を刺しておいてくれたおかげで、すぐに吐いた。まあ、完成したあとに薬が効果あるものかどうかの確認は必要じゃがな」

「それは俺に任せてくれればいい。既に一人回復しているから、同じものが出来上がったかどうかを確認できる」

「それは助かります」

 普通魔法薬というのは時間をかけなければ効果のほどがわからないが、時間をかけては助からない者も出てくるため、ユウマの能力をあてにできるのはありがたいことだった。


「さて、始まりは俺たちがボブスってやつに妹を助けてくれと頼まれたとこからだったんだが、実力は再度示せたし、この街の平和にも貢献したし、住民もこれで助かる、よな?」

 ユウマの言葉にマリアスとタイグルはその通りだと頷いている。


「それはよかった。なら、俺たちはこの街にとって貴重な人物ということでいいよな?」

「それは、もちろんです……」

 さっきからユウマが何を言わんとしているのか? マリアスは首を傾げながら返事をする。


「つまり、俺たちをここに迎え入れてよかったってことだ」

「は、はい」

 確認を重ねてくるユウマに対して、マリアスは引き気味に頷く。


「なら、俺たちがごり押ししたからじゃなく、マリアス自身の判断で俺たちがダンジョンに潜ることは許可してくれるよな? あと、この街に住む住人として、何か問題が降りかかったら解決に手を貸してくれるよな? なにせ、街の救世主なんだから」

 ニヤリと笑うユウマに対して、マリアスはここにきて理解する。


「なるほど、そういうことですか。はあ、そうですね。以前私はダンジョンへの許可を出すことに難色を示していましたが、今は心から許可を出していいと思っています。加えて、この街の住民となり街のために動いてくれるのであれば、あなたたちを守ろうとも思っています。いてもらったほうが、利になりますし」

 ため息交じりのマリアス。だが最後の一言はそっぽを向きながらであり、照れ隠しだということがわかる。


「さて、それじゃあ俺たちは……」

「ど、どこにいかれるんですか?」

 マリアスとしては、今回の件について色々な話を聞きたいと思っていた。

 洞窟には何があったのか、どういう経緯で今回の件を知ったのか。

 どうやって彼らが犯人だと突き止めたのか――それらを説明してほしかった。


「いや、今日の宿を決めてないからさ。しばらくいることになるだろうし、ゆっくり休める場所を探しておくのは当然のことだろ? というわけで、またそのうち!」

 それだけ言うとぱっと立ち上がったユウマはリリアーナを伴ってギルドをあとにする。


 あっという間のことで、マリアスとタイグルは何も言えずに二人が出ていくのをただ茫然と見送ることになった。


「――は、はははっ! うわっはっはっは! あやつらはなかなか面白いのう。必要な情報をあっという間に集め、あれほど巨大なゴーレムを倒し、それを周囲に喧伝するでもなく助けたい人物のもとへと急いでかけつける。うむうむ、良き人物じゃ」

 二人がいなくなって静かになったギルドマスタールームの静寂を破ったのはタイグルの笑い声だった。


「そう、なんですよね。あれだけの力を持っておきながら、偉そうにするわけではないので……是非この街に留まって頂きたいです」

 困ったように頬に手を当てつつもマリアスは柔らかい笑みを浮かべている。


 ここまで来たら二人ともユウマたちのことを買っており、かなり評価している。

 いずれはSランク冒険者になるのではないかとまで予想するほどに……。




 そんなことを話されているとも知らず、ユウマとリリアーナはのんびりと歩いていた。。

 宿を探すとは言ったものの、色々と働きすぎであると自覚しており、どこかの店でゆっくりと食事をしたいと考えていた。


「さて、今度こそこの街をゆっくりと楽しもう!」

「はい!」

 笑顔で頷きあった二人はグランドバイツの街を満喫すべく散策を始めた。

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なんでもしまえる収納魔法 ~勇者召喚されたけど、魔法で逃げ出して自由に生きようと思います~ かたなかじ @katanakaji

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