美夜と真っ暗な幻想の世界

雨世界

1 ……みんな、誰かを探している。

 美夜と真っ暗な幻想の世界


 登場人物


 三ツ橋美夜


 プロローグ


 あなたに語りましょう。二人の千年の恋の物語の結末を。


 ……私が消える。私の記憶が、私の自我が、私自身の存在が、泡となって消えてしまう。……怖い。でも、私は、それでも、どうしても陽くんを助けたいんだ。だから、……しょうがないじゃない!!


 本編


 ……みんな、誰かを探している。


 闇の中には小さな橋があった。本当に小さな赤い橋だ。闇の中で川の流れる音がしたから、美夜はその小さな橋が、小さな川にかかっている橋であることを真っ暗闇の中でもきちんと認識することができた。


 ……私、こんなところでなにやってるんだろう?


 三ツ橋美夜は両手を腰に当てて、そんなことを考える。

 美夜は真っ黒な高校の制服に、お気に入りの赤い肩掛けカバンを持ち、足元には白い靴下と、白いスニーカーを履いている。


 美夜は本当に真っ暗な世界の中にいる。

 月のない夜よりも、真夜中よりも、ずっと暗い場所にいる。


 なぜ美夜がこんな場所にいるのかというと、それが美夜にとって世界で一番大切な人がこの真っ暗な世界の奥で、行方不明になっているからである。

 美夜はその人を助けるために、こんなにも真っ暗な世界の中にまで、わざわざ一人でやってきたのだった。

 ……不安だ。

 美夜は思う。

 この『小さな赤い橋を渡ってしまったら、私はきっと、もう二度と、元の世界には戻ることができなくなってしまう』のかもしれない。


 そんな悪い予感がしてならない。

 これがただの予感であればいいのだけど、美夜のこうした予感はいつも、絶対に当たっていた。

 それは美夜が三ツ橋神社の巫女であることと、関係があるのかも知れない。


 ……陽くん。

 ……私を守って。


 美夜は陽くんからもらった大切な縁結びのお守りをぎゅっと握りしめる。それが今、孤独な美夜の心を支えてくれているものだった。

 美夜は決心をする。

 そして、「よし!」と気合いを入れると、元気の良い足取りで、真っ暗な世界の中を歩き始める。そして『美夜は小さな赤い橋を渡った』。


 ……もう後戻りをすることはできない。

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