死ななきゃ安い異世界転生

クリシェール

3000のスキルを持つ勇者

私はアストライア

とっても優秀な女神!今は、危機に瀕した世界に異世界の勇者を派遣しているの!

今日もしっかり世界を救っていくわよ!


今回はちょっとギリギリもギリギリの世界!生半可な勇者じゃ救えない!

だからこうして選り好みしてるのだけど…


「全然救える気がしない…」


正直お手上げ

今まで呼び出した勇者はその世界の魔王軍の平均戦闘力を大幅に下回ってる。これじゃ世界は救えない。

と言うか、ナニコレ?ムリゲーじゃないの?

あんな高い平均戦闘力を上回る人材がホイホイ居たら世界救世も簡単ですわ。


「はい次ー」


そう言って次の人材を呼ぶ。

ここに来るのは、大抵不慮の事故や無念の死を遂げた人に救済的な第二の生を与える代わりに異世界で勇者として世界を救ってもらうのが条件となっている。

のだが…そりゃぁ今まで平穏な生活を送ってきた人の方が圧倒的に多くて、戦闘力高めの人材なんてホイホイ居るわけないだろう。

当然次呼び込んだ青年も…


レベル1

HP8000

攻撃力2500

守備力2000

俊敏B-

危険察知A

幸運A+

etc...


 総合判断A+


あーダメダメこんなの話になりませんわwww

確かに一般平均からは非常に高めなんだけど、この程度じゃダメ!


「ここは一体なんだ?」


青年の呼びかけにハッと我に返る。

こほんと咳払いをし体裁と取り繕って、威厳たっぷりな口調で話す。


「前途ある若者よ、志半ばで倒れたことはとても残念であった」

「…俺は死んだのか?」

「はい、残念ながら…」

「そうか」

「そんなあなたには朗報かもしれません。あなたに第二の生を与える代わりに救ってもらいたい世界があるのです」


それに対して青年は黙ってこちらを見ているだけだった。


なんかこの青年淡泊だなぁ

見た目は悪くないけど、こんな不愛想じゃ可愛くないなぁ


「あー…、勇者として異世界を救ってもらえないかしら?ほら、最近よくあるでしょ?そっちの世界で人気でしょ?」

「らしいな、知らんけど」


なにこの可愛くない奴!適当な世界送り込んでさっさと次に行こう!うん、それが良い!

何せ今一番重篤な世界を救うのが第一!

この程度なら危険度B-の世界に送っておけば、あとは勝手にやるでしょ?


「それでは勇者、えーっと?」

「伊藤裕也だ」

「あ、はい、勇者伊藤よ!この世界を救うのです」


私がそう叫ぶと彼の足元が眩く光次第に勇者の姿が薄く消えてゆく。

光が収まるころには勇者の姿は完全に消えていた。


さーって、次々

と次を呼ぼうとした時だった。

ふと、先ほどの送り先をどこに設定したっけと気になった。

危険度B-ならば星の数ほどあるが、私は何処に設定した?

そんなことが無性に気になった。例えるなら外出した際いつもの癖で家の鍵をしてしまったせいで、家から数キロ離れた地点で妙に家の鍵を閉めたかどうか気になるアレな感じである。

女神の私でも流石にこの作業を始めてからすでに62時間が経過していた。疲れもたまっている。

偶々、だ。本当にたまたま…

お願いだから思い過ごしであってくれ…

そう願いながら送り先を確認する。


送り先


思わず唾をのみ込む


危険度


B-!B-!



SSS+++



「やっちまったぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!」


思わず大声をあげてしまった。

しかし、それも当然。その世界に異世界人を送れるのは一回きりなのだ。

当然何人も送れるのならば、こんなに迷ってませんよ。危険度SSS+++でも!勇者100万人送れば余裕で制圧できますよ!

でもそれはご法度!本来ならばその世界の住人で対処しなければならない事を、わざわざ神様が手を出して助けてあげる!世界にとっても救済措置!

だけど、勇者の大群なんて送ったらそれは異世界による異世界侵略に他ならない。そんな事すれば魔王軍だって黙ってないし!まじで各方面から怒られるから!!

ま、まぁ勇者が死んだらー世界が一つ滅亡するだけだしー…今まで滅亡した世界も星の数ほどあるけどぉー


全責任私の所為になるんだよぉおおおおおお!!


まじでどうしよう!このままじゃあ私の女神ライフはどうなる!左遷で済めばいいけど、最悪…



…地上に堕とされるッ!



「嫌ぁぁああああああああああっ!それだけは嫌!!」


地上に堕とされたら今までの悠々自適の生活はおくれないって事でしょ!?

だけど一度送った以上もう私ではどうすることもできない!!この世界にクーリングオフなんて制度は無い!

私の運命はこの碌に知りもしない可愛げのない青年勇者の肩にかかったって事!?


「冗談じゃない!!」


………


ついつい熱くなって立ち上がりまでしてしまったけど、今の私にできることはただ見守るだけ…

あぁ、私の慧眼もここまでか…グッバイ私!

………まかり間違ってこの勇者が世界を救ったら、私の慧眼に磨きがかかるんじゃない?

あぁ、でもあの能力値じゃあどんなに頑張っても無理でしょうがぁッ!



ひとまず冷静になって一旦着席する。

そして、下界を覗く鏡を呼び出し、勇者の現在の状況を確認する。

何やら現地の人間と話しているようだ。


「なるほど、それでどう行けばその魔王軍に会える?」


え?

勇者の発言に思わず思考が停止する。

嘘でしょ?見たところ装備も整えた様子は無い。こちらから送り出した時と何ら変わりのない学ラン姿でまさかの魔王軍殴り込み!?


「話を聞いてなかったのか!?これから町中の人間が最後の砦に逃げようって言ってるのに、何をとち狂った事を言ってるんだ!?もうすぐそこまで魔王の軍勢は来てるんだぞ!」

「なんだ、もう来てるのか」


なんだじゃねぇよ逃げろよ!

とりあえずね?最後の砦まで後退して?そこで装備整えて仲間見つけてさ、そこから何とか反撃の糸口をつかもう?

…って伝えられたらどんなに楽か!がんばれ村人そいつ説得してとりあえず後方まで下げて!お願い!!


そんな願いもむなしく勇者は魔王の軍勢が居る方へ歩き出す。


「あんた正気か!?」

「あぁ、悪いが俺はこの世界を救わないといけないらしい」

「はぁ!?」


存外乗り気なんかーぁあいッ!

ここではあんなに不愛想だったのに、そんな素振り見せなかったのに!!


「悪い事は言わないから、一緒に逃げよう!勝てるわけがない!」


そうそう!その人の言う通りだから逃げて!!

しかし勇者は不敵な笑みを浮かべて


「それはどうかな?」


一体お前のどこにそんな自信があんだよ!!敵のステータス見たらちびるぞ!今のお前井の中の蛙だかんな!!

くぅっ!!なんで送り出したら完全放任なのに責任は私が負わなきゃいけないのよ!!

こうなったら上位神に直訴して何とか…


「安心しろ、俺には3000のスキルがある。負ける気はしない」


…え?

今なんて言った?スキルが3000?

確かにそれだけのスキルがあれば…ってなるかぁあいッ!

レベル1でスキル3000あったって何の意味もない!まずはレベル上げて基礎ステータス上げなきゃ勝てるものも勝てんわ!

大体スキルは戦闘の補助!その前に経験積まなきゃ何の意味もない!そんなもんで、自信満々に語らないで!


「それに、もう魔王軍はここまで来たらしいな」


勇者はそう言って空を見上げる。

それにつられて私も視点を勇者の見る上空へ移すとそこには黒い悪魔が一人浮かんでいた。


「愚かな虫けら諸君、殺戮の時間だ!この先鋭のディアブロ様が皆殺しにしてやる!」


先鋭のディアブロ?ステータスは…


レベル90

HP1240000

攻撃力98000

守備力95000

俊敏S+


あ、終わった。この勇者に勝ち目無い。グッバイ私の女神ライフ。


「なんだ一人で来たのか?」

「なんだ人間?不満か?貴様らごとき俺様一人で十分なんだよ!」

「だったら愚策だったな…」


この勇者にだってディアブロの能力値は見えてる筈なのになんでそんなに余裕の表情浮かべてられるのよ!

あー、でもそうね、今更逃げても俊敏S+の足の速さからは逃げられないわよね。うんうん。

せめてもの使命よ、彼の最後を見届けてあげるの…


「ふん!生意気な人間め!これで灰塵と化せ!メガフレイムメテオ!!」


そう叫び頭上に掲げた悪魔の両腕の先に巨大な火の玉が形成されて行く!


「泣き叫べ!命乞いをしろ!」


そう言いながら高笑いをするディアブロ

しかし、勇者はそこから微動だにしない。

先ほどまで傍にいた町人はとうの昔に逃げ出したと言うのに


「…チッ!死ねよやぁぁああ!」


ディアブロが両腕を振り下ろすと頭上にあった火の玉が勇者目掛けて勢いよく落ちた。

想像を絶する熱量と衝撃が瞬時に周辺に伝わり建物を次々と吹き飛ばし、辺り一面を荒れ地と変えてゆく。

こんな攻撃食らったんじゃひとたまりも無い…ましてはレベル1HP8000の勇者は跡形もなくなっているだろう。

…あっけなかったな、実際はこんなものか。実は彼の余裕にほんのちょっぴり期待をしていたのだが、これが現実。せっかく第二の生を与えてあげたのに一時間もしないうちに散らせてしまった。

鏡からはディアブロの笑い声だけが響く。

あきらめて鏡をしまい、自ら上位神の所に報告に行こうとした時だった。


「何!?」


ディアブロの思わぬ声に再び鏡に視線を戻すとそこには、土煙が少しづつ晴れてゆきそこに片膝ついて蹲っている人影が写った。


「何故だ!なぜまだ生きている!」


勇者はまだ生きてる!?どうして!?

土煙が晴れると勇者は少し苦しそうな表情を浮かべながら立ち上がる。


「何故!?何故立ち上がれる!?貴様ごとき虫けらが俺の攻撃を受けて立っていられる!?」

「俺は、スキル《アンダーシャツ》を発動していた。このスキルはHPが85%以上あるときにHPが0になるダメージを受ける時発動する。その時俺のHPは10%だけ残る!」


勇者のステータスを確認すると確かにHPは800だけ残っていた。しかし、これでは…


「…なるほど?なるほど、なるほど。しかしだからと言ってどうなる?首の皮一枚つながっただけだぞ?」


ディアブロの言う通り例え生き延びたとしてもHPはたった800

だが、勇者の表情からはあきらめは見えなかった。


「一つだけ言わせてもらう、一度死んだ身だから特に言わせてもらう。…死ななきゃ安い!」

「はぁ?」


は?

まるで意味が分からんぞ…


「俺は、HPが10%以下になった時発動するスキル《火事場の力》を発動!俺の能力値を10倍にする!」

「何!?」


これによって勇者の能力値は10倍…だけどそれでも攻撃力は25000ディアブロには到底届かない。


「その程度のパワーアップが何になる!?」

「まだだ!俺は自分の能力値が上昇した事により、スキル《アッパーフォース》を発動!俺の現在の攻撃力の値だけ相手のHPにダメージを与える!」

「何だと!?」


ディアブロのHPを確認すると確かにHPが25000分失われ残りHPが1215000になってる。


「ぐッ、この程度かすり傷だが…虫けら如きが俺様にダメージだと!?」


こんなスキル見たことない、こんな不思議なスキルは一体何なの?


「さらに俺はスキル《スキルディフューザー》を発動!このスキルはHPが10%以下の時、残りHPの半分を代償に発動できる!このスキルにより相手の能力の内一つをこの戦闘の間無効にすることができる!そして、俺が無効化するのは、貴様の飛行能力だ!」


なんと!先ほどまで空から見下ろしていたディアブロは急速に力を失い地面へと墜落する。

これで、上空からの一方的な攻撃は無くなったけど、勇者のHPは残り400になってしまった。


「くッ!貴様ぁッ!よほど死にたいらしいなぁッ!この俺様を虫けらと同じ大地に立たせた事を後悔させてやる!!」


ディアブロはそう言い放つと全身に力を籠め始めると、その能力値がぐんぐんと上昇する。


攻撃力・守備力530000


その数値は絶望的だった。

これが本来のディアブロの戦闘力なのだ。


「これで今度こそ貴様を跡形もなく…」

「この瞬間俺のスキルが発動する!」

「何!?」


何!?


「自分のHPが10%以下の時に相手の能力値が上昇した場合スキル《追従する力》が発動できる!このスキルにより俺の能力も相手と同じ上昇分だけ上昇する!これにより俺の攻撃力は457000!守備力は437000となる!」

「馬鹿な!」


ここに来て急に差を詰めて来た!なんなのこの勇者。こんな勇者見たことない…

スキルなんて戦闘の補助…の筈だった。なのにこの勇者レベルも上げずスキルだけでこんなにも戦闘力を上昇させた!でも…


「ぐぐぐぐぐぐッ!き、貴様ぁッ!いちいち癇に障る野郎だ!だが、まだ俺様の力の方が上だ!!」

「…それはどうかな?」


HPは残り400、戦闘力は依然劣勢…

ここから逆転なんて


「行くぞ!バトルだ!」

「何だと!?」


なんてことなの、勇者は何を血迷ったのか能力値が劣勢のままディアブロに殴りかかりに行ってしまった!

このままでは返り討ちにあってしまう。HPが万全ならここから熱い格闘戦が繰り広げられるのだろうが、何せ勇者のHPは残り400!ディアブロの攻撃を掠っただけでも死んでしまう程風前の灯!


「血迷ったか!?貴様ッ!このまま死ね!」


怒り狂ったディアブロの拳が勇者の眼前に迫る。


しかし、ディアブロの拳は勇者の顔面をとらえることなく空を切る。

それと同時に勇者の拳がディアブロの腹部にとても激しくそして重たい音を立てて命中する。


「この瞬間俺は二つのスキルを発動する。一つはスキル《決死のカウンター》…このスキルは、相手の攻撃を回避し、自分の攻撃が命中できた時に発動する。その攻撃は相手の守備力を無視する」


ディアブロの口から血がごふっとあふれ出す。


「そして、もう一つのスキルは《弱者の一撃》このスキルは自分のレベルが相手より低く攻撃が命中した時に発動する。自分の攻撃力は相手とのレベル差分を掛けた数値になる。俺とお前のレベル差は89…」

「なん…だと…?」

「よって俺の攻撃力は89倍…40673000だぁッ!!」


勇者はそう叫び、拳を振りぬくとディアブロは胴体から風船がはじける様に粉砕されてバラバラになる。


「ば、馬鹿な…こ、この俺様…が…」


そのようなセリフを最後にディアブロは絶命する。


「だから言っただろう、死ななきゃ安い…お前の敗因は一撃で俺を仕留めようとしたことだ…」


一部始終を見て絶句する。

なんなのこの勇者、スキルで急激な能力アップをしてあのディアブロを倒してしまうなんて…

力の差は圧倒的だったのにも関わらず…もしかしたらこの勇者ならこの世界を救えるかもしれない!

そしたら私の女神ライフは続く!がんばれ勇者!

でも、一つ疑問がある。

…一体このスキルは何処で習得したの?

初めから持っていた?転生の儀を行う前に戦闘力以外の能力チェックを怠ったせいで詳しいタイミングがわからない。

しかし、流石に転生した直後にあれだけのスキルを入手する時間なんてなかった筈。

だったら転生以前から持っていたスキルになるのだが何がきっかけでそんな能力を手に入れていたのかしら…

自分で送り出しておいてなんだけど、この勇者…謎が多い!


そんなことを考えていると勇者は、急にしゃがみ込み苦しそうな表情を浮かべる。

それも当然の筈、彼のHPは依然400のまま言ってしまえば瀕死の状態なのだ。

そんなさなか、勇者を覆い隠す程の巨大な影が迫るのを見た。

勇者も当然それに気付き見上げる。そこには全身甲冑に身にまとった巨躯があった。

勇者は咄嗟に立ち上がり身を構えるが、やはりふらつく。先ほどの戦闘が終了し、勇者の能力は元の数値に戻っていた。


「見ていたぞ…貴様が先鋭のディアブロを凌駕する瞬間を…」


巨躯は語る。


「人の身でよもやそのような芸当を見せてくれるとは…実に愉快だ。だが、我に届くか?」


勇者は語らず、ただその巨躯を睨みつける。


「語らずともその目でわかる。貴様の心は折れてはおらぬ。よかろう貴様を我が敵と認識しよう…我は魔王軍四天王が一人天狼王バルバトス」


私は内心慌てていた。

魔王軍四天王?どうするのこれ?なんか明らかにヤバそうなの来たんだけど?

とりあえずパラメーター覗いてみよう…げぇっ!


天狼王バルバトス


レベル220

HP268000000

攻撃力320000000

守備力280000000

俊敏SS+

etc…

 総合評価SS-



はい積んだぁー!こっちの勇者は瀕死なんだぞぉッ!勝てるわけがない!今度こそ終わった!

と言うかナニコレ、インフレ振りきってるってレベルじゃねぇぞ!四天王でこれって魔王のパラメーターは一体どうなっとるんじゃッ!?


しかし、予想に反して二者は微動だにしない。


「……まずは傷を癒すが良い。他者の負わせた傷を持つ者を倒しては我が名に傷がつくそれまではこの勝負は預けておく」


バルバトスはそう言うと踵を返して行った。


それを見て私は胸をなでおろす。知らず知らずのうちに熱くなり立ち上がってた体を椅子に戻し一息をつく。

今回の一件で見えた希望と絶望…この勇者は、この戦いを生き抜くことができるのだろうか…

私には見守る事しかできない。だから、どんな結末であれこの勇者の紡ぐ物語を見届けるのが私の義務だろう。







でもやっぱり地上に堕とされるのだけは嫌ぁあああッ!


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