魔法の国:外②
遠野たちと別れた後、一人で逃げ回っている少女がいた。少女の名は千景。金髪で珍しい長い耳。エルフと人間の間に生まれたハーフエルフだ。
彼女の名はラナ・エスパーダ。
ハーフエルフの故郷エスケードの出身だ。
分け合って故郷から飛び出し、『黒魔術師』と『外道魔法使い』から追われる日々を送っていた。
異界の場所へ逃げれる扉(イカイ・ワールド)が川島と呼ぶ不思議な人たちと出会い、故郷に無事に変えれるまでは川島たちの世界で暮らしている。
今日は分け合って二人と別行動し、この世界に来ている。
「待てーーー!!!」
「逃がさんぞ!!」
二人組の黒いローブを着た連中に追われ三十分は経過している。
彼らは『黒魔術師』。『人種差別』を掲げる悪い奴らだ。
お世話になった友達を助けるために駆けつけたものの友達は助かりたい一心で裏切られ、追われる日々を繰り返すようになった。
友達は故郷から出るときに協力してくれたいい人だったが、後に人売り商人だと知った。「友達」を巧みに扱って「売り物」にしようとしていたが、『黒魔術師』たちに目を付けられ、仕方なく捨てたんだ。
「友達」を武器にしていた商人は真っ先に真っ二つにされていた。
「ざまぁみろ」と心の中で喜びつつ『黒魔術師』たちから逃れるため時間稼ぎに貢献してくれた。
川島と出会ったのはそのあとすぐだった。
街のこともこの世界のこともMPのことも知らない不思議な奴らだった。
彼らにMPのことを教えれば、協力してくれると思った。
MPを教えるなり彼らはすぐに馴染んだ。私よりも魔法の才は出るほど優れていた。魔法学園の生徒だったらトップで合格していてもおかしくはないほどだ。
そんな彼らと別れ、一人でこの場所に来たのは――。
「お前ら、取り囲め!」
囲むようにして突然見渡す限り『黒魔術師』たちが現れた。
「しまった! 罠?!」
誘導されていたようだ。
箒に跨って風下を避けてきたのにそれが仇になってしまったようだ。
彼らは透明マントを持っていた。
おそらく『外道魔法使い』と手を組んだのか、取引したか殺したかで奪ってきたものだろう。
透明マントはその名の通り、透明になる。
雨にぬれたり風に吹かれたりすると透明ではなくなる欠点があるが、彼らは足場を作ることで箒に乗るという算段を踏まずにできていたのだ。
「もう逃がさねぇぞ」
「さあ! 大人しくしろや!!」
敵の数が多すぎる。
一人では捌ききれない。
二人も連れてこればよかったなーと悩みながらゆっくり魔法を解く。地面に向けてユラユラとゆっくり下降する。彼らも互いにコミュニケーションを取り上空で待機する者と地表で待機する者と別れ分散していた。
地表に到着すると見せかけて飛び去るつもりだったが彼らからは欺くことは叶わない。
「――げ!」
「おい、この声…」
周りがざわつく。
南西から爆発するほどのMPが近づいてくる。
「千景!!」
鳥のように飛行するのは橋本だ。鳥人間の姿に変身し、川島を乗せてきたのだ。大鳥のように鋭いくちばしに白い羽毛は彼らならではの発想だった。
「川島! 橋本!!」
千景が二人に呼びかけた。
千景が無事なのを安堵しながら川島たちは仕掛ける。
「竜星剣(りゅうせいブレード)」
MPで作った剣を地表に向けて投げた。
投げた剣はまるで閃光のように走る竜そのもの。剣がドラゴンのように姿かたちが変わる。変身魔法を組み合わせたものだ。
「ひえぇ~~」
「にげろー!」
慌てて逃げる黒魔術師数人を除いて十二人ほどはその場に立ち止っていた。
「新人は援護に回れ」
先輩面をした連中は結界を固める。
長方形のガラス板のようなものだ。しっかりと千景を閉じ込めている。
「所詮はまやかし。その程度だ」と言わんばかりに剣を結界で止めたのだ。剣は真っ二つに折れ、竜が大きな壁に衝突したかのように苦しみながら消えていった。
「MPは見せかけだけのようだ」
黒魔術師たちは結界でさらに強大にし、川島たちも取り込もうとした。
その瞬間、結界を突き抜けてあるものが落ちてきた。
「な!!? 隕石だとおお!!!」
優雅に空にいた川島は聞こえないかもしれなけど言ってやった。
「なにも竜だけじゃない。ぼくはきちんと言った。『竜星剣』だと」
竜に見せかけていたのは隕石を隠すためだった。
剣を竜に見せかけ、脅かし、止めに隕石で木端微塵にする作戦だった。
それが大当たりだった。
黒魔術師たちは結界で竜を粉砕することができた。十二人で作った結界はドラゴンでも破ることは不可能なほど強度な造り。そのうえで、上空にいる邪魔者(川島たち)を排除するために結界を伸ばした。
結界の中に閉じ込めば籠と一緒。檻の中に閉じ込め、暴れても出られることはない。
その読みは間違っていなかった。
竜が消え、隕石が落下してくるのを気づいたのは結界が破かれた時だった。結界が崩れた。つまり、竜よりも強大な力が破ってきたのだと黒魔術師たちに教えることができたのだ。
「クソがあああああ!! …なーんて」
後ろで待機していた新人たちに合図を送った。
新人たちはともに詠唱し、すでに呪文を終えていた。
「消滅(ザ・イール)」
パンっと弾けるかのように隕石が風船のように破裂してしまったのだ。
「どうだ! 見たか!! これが『黒魔術師』たちの力だ」
結界を立て直し、再度上空にいた川島たちを取り囲んだ。
「終わりだ。異物どもめ」
グシャりと果実を握りつぶしたかのようにすりつぶした。二人の面影は上空にあとがたもなく消し去ってしまった。
「さてと」
先輩面していた黒魔術師が千景に歩み寄る。すっかり希望を失ってしまった千景の瞳には色が映っていなかった。
顎に手をかけ、ゆっくりと針のようなものを瞳に向ける。
「仲間の居場所を言え!」
瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
辛うじてなのか声はかすれている。
「……え……て…」
「なんだ?」
震える唇に耳を近づける。
すると聞こえてきたのは…。
「”目を覚まして”」
まるで稲妻が走ったかのように全身がビリビリと衝撃が走った。瞼を数回すると、見えてくるものが徐々に現実に引き戻されていく。
「な…んだと…」
結界が壊れ、仲間が倒れている。
針を刺していた相手は逃げ出した後輩のひとりだった。
まるで幻覚でも見せられていた気分だ。
「いったい…なに…が……」
当たりを見合しても黒服以外は誰もいない。まるで最初からいなかったみたいに。
***
「ナイス判断だな」
「千景の機転があったおかげで助かったよ」
千景と一緒に異世界の扉を潜っていた。
あの時のことを思い浮かべながら何が起きたのかを順序に思い出していく。
竜星(りゅうせい)剣(ブレード)を放った隙に変身していた橋本はMPを消費して幻覚作用ある粉末を剣に乗せて流した。彼らは幻覚作用がある粉末を吸い込んだと気づくこともなく、誘い出すことができた。
結界が張られる前に逃げていた数人の黒服たちを千景によって倒し、透明マントを盗んでおく。幻覚作用で竜が襲ってきているタイミングで結界が張られる前に外に抜け出し、透明マントを着て移動した。
その際に逃げ出した黒服たちを橋本・川島たちに化けさせ、千景もついでに化けさせた。隕石が落ちるタイミングで空を飛行し、逃げ去ったということだ。
「ぼくのおかげでもあるよ。二段構えの魔法って案外難しいものなんだよ」
「わかっているって川島もよくやったよ」
千景は二人に勝利を祝いあった。
部屋に戻るなり、千景は何しに戻っていたのかを二人は問い詰めていた。
「実はこれを探していたの」
「これって…!!」
真っ赤な宝石と青い宝石が千景のハンカチに包まれていた。
「魔法鉱石。二人とも店先で『ほしい』って言っていたから買ってきたの。本当は見つかる前に逃げるつもりだったんだけど…テヘヘ」
「舌を出して笑う千景は可愛い」と連呼する橋本を軽蔑しながら「ありがとう。今度はぼくからお礼するよ」とプロポーズのようにカッコよく決めつける。
「お前! 気持ち悪いぞ!!」
「そっくりその言葉を返すぜ!」
川島と橋本の喧嘩は今に始まったことじゃない。二人とも喧嘩をするほど仲がいい。千景はこんな愉快な友達を思ってすごくよかったと思っている。
でも、この世界に長生きはできないことも知っている。
千景は言えない。二人に事実を言えなかった。もし、言った瞬間。二人は去って行ってしまうかもしれないと。心の奥底で震えていたのだった。
放課後クラブ にぃつな @Mdrac_Crou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。放課後クラブの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます