魔法の国:外①
魔法の国。
幼いころのときめきを失くさない思い出の場所。
不思議な扉を潜った先にあるのは、夜でも光輝く雲海の下で健気に働く彼らの仕事を見守ることができる。
これは、水島たちが通う学校とは別の学校の物語。
繰学園。不思議な扉が現れたのはいつごろからなのかは一切記載がない。ただわかるのは、一度でもこの扉が作り出す幻想に虜になった瞬間、元の場所に帰ってくることはない。
繰学園の七不思議のひとつ『帰ってこられない扉』。
その扉は地下倉庫にあり、いつもは丁重に何重にも重ねた鍵で閉じられているが、ここ最近は鍵が外されていることが目立つようになっていた。
「また千景のやつか」
ぽっちゃり体系の男の子が愚痴をこぼした。
千景とは『オカルトクラブ』のメンバーで同い年の少女だ。
「ぼくは止めたんだけどね」
ぽっちゃり体系の少年よりも背が低い少年が止めたけど言うことを聞いてくれなかったとごまかしていた。
「とりあえず連れ戻そう」
「うーん…またあの世界に行くんだね。行きたくないなぁ」
苦手そうに背が低い少年は愚痴をこぼした。
扉に手をかけ、ぐっと力を込めて押した。
扉はゆっくりと開かれ、真っ白い空間に溶けるかのように二人の姿は消えていった。
***
魔法の国。
ぼくたちはそう呼んでいる。
昼間は箒で飛ぶ若者たちがうようよと飛んでいる。
気持ち悪い虫が地面を泳いでいる。
夜は人工だと思われるが。眩い光に包まれた海。いや、あれは空だ。空なのにまるで海のように広々と水面が広がっている。
ナイトプールのように水中は銀河の光の如くか発光しあって、それはそれはとても美しくきれいな空だった。
そんな世界に逃げるかのように千景はいつもこの世界に現実逃避していた。
「橋本。MP足りるか?」
「お菓子食ってきたからたっぷりあるさ」
MPとはこの世界におけるエネルギーのようなものだ。MP(マジックポイント)と呼び、魔法を使うにはMPがないと働かないという規則性がある。
この世界に初めて来たときは、MPの存在を街にいる人に聞いて使えるようになったというエピソードがあるが、あのときは千景のひらめきがあったおかげで部外者だと思われずに済んだ。
「危なくなったら頼むわ橋本」
「しっかりサポートしてくれよ川島(ちび介)」
ぽっちゃり体系の橋本と、メンバーからは『ちび介』と渾名されている川島。メンバーの中でも可愛くてみんなの憧れの千景。
「さて、どこへいったもんかね」
仁王立ちし、千景がいつも散歩していそうな場所を思い浮かべる。頭の中ではこれまで千景が喜んでいた場所を思い浮かべていたが、どれも散々調べ尽し姿形得られたことはなかった。
「魔法を使っていくか?」
「あんまり使いたくないんだけどなー」
渋々と川島は地面に向けて指を付けた。
円を描き、真ん中に石を置き、呪文を唱えた。
「探知機(アー・ラマ)」
石は自分たちの座標を示し、円はレーダーの役割を果たす。石を中心にそれぞれ方角が示し、円の中で点滅すればそこにいると告げられる。
「東北の方だね。でも右に移動している。飛行中なのかな?」
「多分そうだと思う。地表では虫が徘徊している。うかつに移動するのは何も知らない奴だけだからな」
先ほど使った自分たちの位置を示した小石を拾い、ポケットにしまう。小石は自分たちの居場所を記録しているため、赤の他人に拾われては自分たちの居場所を教えるようなものとなってしまう。
それを避けるため、石を持っていくのである。
「箒どうする? パクってくるか」
「いや、直接飛ぼう。翼程度ならMPは安いからな」
足場を作って移動したり転移したりとする方法も浮かんだが、MPが無駄に消費するだけなので、今回はパスした。それに探している人は移動中だ。
足場を作っては飛んでいてはスピードに追い付かないし、転移系はある程度場所をマーキングしておかなければ辿り着けない。最悪変な場所に出るかもしれないからだ。
「くれぐれも『外道魔法使い』や『黒魔術師』に遭遇しないことを祈ろう。奴らに出くわすと面倒だからな。」
『外道魔法使い』は、まさに外道と呼ばれる集団だ。
彼らは魔法を使って人体実験してもいいと考えている。そのため、他の魔法使いからでも嫌われている。彼らは「人体実験こそ神に認められた行いだと。捧げたものは天国へ招かれる」とことごとくに口にする。
白衣を着ているから姿は一目瞭然だ。
『黒魔術師』はその名の通り黒いローブととんがり帽子をかぶった連中だ。フードを被っている者や顔を隠すためのマスク、仮面などを付けている人もいる。
彼らの目的は『種族抹殺』を掲げるいかれた連中だ。
『人間以外』は『穢れた存在』だと一方的に決めつけ、処刑している。
部外者であるぼくたちに敵意を向けるたのも理解ができる連中だ。
両者とも話が通らないし、言語も異なる。
最悪戦闘にもなるから。正直MPのことを考えれば戦いたくもない連中だということだ。
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